Archive for the ‘ブログ’ Category
医師の診療と医療水準
医師が診察を行うときは医療水準に従わなければならないとされるところ,この医療水準をどのように考えるかが問題となります。
新しい治療法が医療水準にあるかが問題となった最高裁平成7年6月9日判決は,「当該疾病の専門的研究者の間でその有効性と安全性が是認された新規の治療法が普及するには一定の時間を要し,医療機関の性格,その所在する 地域の医療環境の特性,医師の専門分野等によってその普及に要する時間に差異があり,その知見の普及に要する時間と実施のための技術・設備等の普及に要する時間との間にも差異があるのが通例であり,また,当事者もこのような事情を前提にして診療契約の締結に至るのである。したがって,ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり,右の事情を捨象して,すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして,新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており,当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,特段の事情が存しない限り,右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである」と判示して医療水準は当該医療機関の特性等に応じて判断されるとしています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
医療関係訴訟における相当程度の可能性の存在
不法行為等による損害賠償責任が認められるためには結果との間の因果関係が必要となるところ,医療関係の訴訟では相当程度の可能性の存在という問題があります。
この相当程度の可能性の存在について,国家賠償請求が問題となった最高裁平成17年12月8日判決は,「勾留されている患者の診療に当たった拘置所の職員である医師が,過失により患者を適時に外部の適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同病院において適切な医療行為を受けていたならば,患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,国は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害について国家賠償責任を負うものと解するのが相当である」とした上で「上告人について,速やかに外部の医療機関への転送が行われ,転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,上告人に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたということはできない。そして,本件においては,上告人に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたということができない以上,東京拘置所の職員である医師が上告人を外部の医療機関に転送すべき義務を怠ったことを理由とする国家賠償請求は,理由がない」と判示して相当程度の可能性の存在が証明されていないとして国家賠償請求を否定しています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
雇用機会均等法9条は,女性が妊娠・出産したこと等を理由として不利益取扱いをすることを禁止しているところ,この不利益取扱いにあたるかどうかが問題となることがあります。
妊娠中の軽易業務への転換の際の降格の適法性が問題となった最高裁平成26年10月23日判決は,「均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である」とした上で,本件降格についてはこのような特段の事情を否定して原審の判断を破棄しています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
損害賠償義務を履行した労働者からの使用者に対する逆求償
労働者が第三者に損害を与えた場合,使用者責任の要件を充たせば使用者も第三者に対し賠償責任を負った上で当該労働者に対し求償権を有することになります(民法715条)が,損害賠償を行った労働者からの使用者に対する求償(逆求償)の可否という問題があります。
この問題について,最高裁令和2年2月28日判決は,「民法715条1項が規定する使用者責任は,使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや,自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し,損害の公平な分担という見地から,その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである」「このような使用者責任の趣旨からすれば,使用者は,その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず,被用者との関係においても,損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである。また,使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対して求償することができると解すべきところ」「使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない。以上によれば,被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,上記諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができるものと解すべきである。」と判示して労働者からの逆求償を認めています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
再雇用社員と正社員の労働条件の相違
定年後継続雇用制度によって定年退職した後に再雇用されることがありますが,この再雇用社員と正社員との間の労働条件の相違が問題となることがあります。
基本給の相違が旧労働契約法20条にいう不合理と認められるかが問題となった最高裁令和5年7月20日判決は,「労働契約法20条は,有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期労 働契約を締結している労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができる ものであるか否かを検討すべきものである」とした上で,「原審は,正職員の基本給につき,一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり,他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず,また,嘱託職員の基本給についても,その性質及び支給の目的を何ら検討していない」「また,労使交渉に関する事情を労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては,労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず,その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される」「原審は,上記労使交渉につき,その結果に着目するにとどまり,上記見直しの要求等に対する上告人の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を勘案していない」「被上告人らに支給された嘱託職員一時金は,正職員の賞与と異なる基準によってではあるが,同時期に支給されていたものであり,正職員の賞与に代替するものと位置付けられていたということができるところ,原審は,賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない」「上告人は,被上告人X1の所属する労働組合等との間で,嘱託職員としての労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたが,原審は,その結果に着目するにとどまり,その具体的な経緯を勘案していない。このように,上記相違について,賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえることなく,また,労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま,その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には,同条の解釈適用を誤った違法がある」と判示して原審の判断を破棄しています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
動機の錯誤における動機の表示
意思表示をする者が「法律行為の基礎とした事情」についてその「認識が真実に反する錯誤」(民法95条1項2号)を動機の錯誤と言いますが,この場合は「その事情が法律行為の基礎とされていること」が「表示されていたとき」でなければならない(同法同条2項)とされていることからその表示が問題となることがあります。
信用保証協会と金融機関との間の保証契約についての錯誤が問題となった最高裁平成28年12月19日判決は,「意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である」「本件会社が中小企業者の実体を有することという被上告人の動機は,それが表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,本件保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである」と判示して動機が表示されていてもそれが法律行為の内容になっていないとして要素の錯誤の成立を否定しています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
不動産の買戻しと譲渡担保の区別
担保のために財産を売却した上で買い戻すということが行われることがありますが,担保のために財産の所有権を移転するものとして譲渡担保が存在することからその財産の移転がそのどちらにあたるのかが問題となることがあります。
買戻特約付の売買契約の形式をとりながら目的不動産の占有移転を伴わない契約が問題となった最高裁平成18年2月7日判決は,「真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務」「を負わない(民法579条前段,580条,583条1項)。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。そして,真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,民法も,これを前提に,売主が売買契約を解除した場合,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は 譲渡担保契約と解するのが相当である」と判示して占有が移転しない場合は譲渡担保であるとしています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
医療水準への期待の侵害による不法行為
医療過誤を理由として患者が医師等に対して不法行為責任を追及することがありますが,医療水準に適った医療行為を受けることができるという期待権の侵害による不法行為の成否という問題があります。
この問題について最高裁平成23年2月25日判決は,「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任を負うことがあるか否 かは,当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものであるところ,本件は,そのような事案とはいえない」と判示して消極的な見解を述べています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
自筆証書遺言における押印
遺言者が遺言の全文,日付,氏名を自書し,これに押印する方式の遺言を自筆証書遺言と言うところ,この押印と認められるかどうかが問題となることがあります。
花押を書いた遺言が問題となった最高裁平成28年6月3日判決は,「花押を書くことは,印章による押印とは異なるから,民法968条1項の押印の 要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。そして,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書のほかに,押印をも要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ」「我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。 以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである」と判示して花押では要件を充たさないとしています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花
節税のための養子縁組
養子縁組が成立するには縁組意思の合致が必要であり,縁組意思を欠く場合は無効(民法802条1号)とされるところ,節税のための養子縁組は縁組意思を欠き無効となるのではないかが問題となったことがあります。
相続税を減らす目的での養子縁組が問題となった最高裁平成29年1月31日判決は,「養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない」と判示してこのような養子縁組を有効としています。
【お問い合わせ先】
〒108-0072東京都港区白金一丁目17番2号 白金アエルシティ 白金タワー テラス棟4階
ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
最寄り駅;東京メトロ南北線/都営 三田線 「白金高輪駅」 4番出口から直通で徒歩1分
(ご来所には事前の電話予約が必要です。)アクセス(地図等)

公園で咲く花