7月, 2025年

性別の取扱いの変更をした者の親子関係

2025-07-28

 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(特例法)に基づいて性別の取扱いの変更が行われることがありますが,この変更の審判を受けた者の親子関係が問題となったことがあります。

 この特例法に基づく性別の変更の審判を受けた者とその妻が懐胎した子との父子関係が問題となった最高裁平成24年12月26日決定は,「特例法4条1項は,性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす旨を規定している。したがって,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法772条の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが」「性別の取扱いの変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当 でないというべきである。そうすると,妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届がされた場合においては,戸籍事務管掌者が,戸籍の記載から夫が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であって当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして,当該子が民法772条による嫡出の推定を受けないと判断し,このことを理由に父の欄を空欄とする等の戸籍の記載をすることは法律上許されないというべきである」と判示してこの場合における嫡出の推定を認めています。


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生殖補助医療を利用した場合の親子関係

2025-07-21

 不妊症等に対処するため生殖補助医療が利用されることがあるところ,生殖補助医療を利用して生まれた子の親子関係が問題となることがあります。

 女性の卵子を用いた生殖補助医療により生まれた子との母子関係が問題となった最高裁平成19年3月23日決定は,「実親子関係は,身分関係の中でも最も基本的なものであり,様々な社会生活上の関係における基礎となるものであって,単に私人間の問題にとどまらず,公益に深くかかわる事柄であり,子の福祉にも重大な影響を及ぼすものであるから,どのような者の間に実親子関係の成立を認めるかは,その国における身分法秩序の根幹をなす基本原則ないし基本理念にかかわるものであり,実親子関係を定める基準は一義的に明確なものでなければならず,かつ,実親子関係の存否はその基準によって一律に決せられるべきものである。したがって,我が国の身分法秩序を定めた民法 は,同法に定める場合に限って実親子関係を認め,それ以外の場合は実親子関係の成立を認めない趣旨であると解すべきである。以上からすれば,民法が実親子関係を認めていない者の間にその成立を認める内容の外国裁判所の裁判は,我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相いれないものであり,民訴法118条3号にいう公の秩序に反するといわなければならない。このことは,立法政策としては現行民法の定める場合以外にも実親子関係の成立を認める余地があるとしても変わるものではない」「我が国の民法上,母とその嫡出子との間の母子関係の成立について直接明記した規定はないが,民法は,懐胎し出産した女性が出生した子の母であり,母子関係は懐胎,出産という客観的な事実により当然に成立することを前提とした規定を設けている(民法772条1項参照)。また,母とその非嫡出子との間の母子関係についても,同様に,母子関係は出産という客観的な事実により当然に成立すると解されてきた」「 民法の実親子に関する現行法制は,血縁上の親子関係を基礎に置くものであるが,民法が,出産という事実により当然に法的な母子関係が成立するものとしているのは,その制定当時においては懐胎し出産した女性は遺伝的にも例外なく出生した子とのつながりがあるという事情が存在し,その上で出産という客観的かつ外形上明らかな事実をとらえて母子関係の成立を認めることにしたものであり,かつ,出産と同時に出生した子と子を出産した女性との間に母子関係を早期に一義的に確定させることが子の福祉にかなうということもその理由となっていたものと解される。 民法の母子関係の成立に関する定めや上記判例は,民法の制定時期や判決の言渡しの時期からみると,女性が自らの卵子により懐胎し出産することが当然の前提となっていることが明らかであるが,現在では,生殖補助医療技術を用いた人工生殖は,自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず,およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能にするまでになっており,女性が自己以外の女性の卵子を用いた生殖補助医療により子を懐胎し出産することも可能になっている。そこで,子を懐胎し出産した女性とその子に係る卵子を提供した女性とが異なる場合についても,現行民法の解釈として,出生した子とその子を懐胎し出産した女性との間に出産により当然に母子関係が成立することとなるのかが問題となる。この点について検討すると,民法には,出生した子を懐胎,出産していない女性をもってその子の母とすべき趣旨をうかがわせる規定は見当たらず,このような場合における法律関係を定める規定がないことは,同法制定当時そのような事態が想定されなかったことによるものではあるが,前記のとおり実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり,一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであることにかんがみると,現行民法の解釈としては,出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず,その子を懐胎,出産していない女性との間には,その女性が卵子を提供した場合であっても,母子関係の成立を認めることはできない」と判示して子を懐胎し出産した女性を母としています。


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子の引渡しを受けるための人身保護請求

2025-07-14

 夫婦の関係が悪化するとその子の奪い合いになることがありますが,その子の引渡しを求めるために人身保護請求が利用されることがあります。

 共同親権者間における幼児の人身保護請求が問題となった最高裁平成6年4月26日判決は,「夫婦の一方(請求者)が他方(拘束者)に対し,人身保護法に基づき,共同親権に服する幼児の引渡しを請求した場合において,拘束者による幼児に対する監護・ 拘束が権限なしにされていることが顕著である(人身保護規則四条)ということができるためには,右幼児が拘束者の監護の下に置かれるよりも,請求者の監護の下 に置かれることが子の幸福に適することが明白であること,いいかえれば,拘束者が幼児を監護することが,請求者による監護に比して子の幸福に反することが明白であることを要すると解される」「そして,請求者であると拘束者であるとを問わず,夫婦のいずれか一方による幼児に対する監護は,親権に基づくものとして,特段の事情のない限り適法であることを考えると,右の要件を満たす場合としては,拘束者に対し,家事審判規則五二条の二又は五三条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され,その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合がこれに当たると考えられるが,更には,また,幼児にとって,請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに,拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり,満足な義務教育を受けることができないなど,拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合がこれに当たるというべき」と判示しています。


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遺言の解釈による遺言事項の拡大

2025-07-07

 遺言できる事項は民法に規定されているところ,遺言事項として規定されていない事項の遺言が認められるかが問題となることがあります。

 受遺者の選定を遺言執行者に委託する旨の遺言が問題となった最高裁平成5年1月19日判決は,「遺言の解釈に当たっては,遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり,そのためには,遺言書の文言を前提にしながらも,遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものというべきである。このような見地から考えると,本件遺言書の文言全体の趣旨及び同遺言書作成時のDの置かれた状況からすると,同人としては,自らの遺産を上告人ら法定相続人に取得させず,これをすべて公益目的のために役立てたいという意思を有していたことが明らかである。そして,本件遺言書において,あえて遺産を「公共に寄與する」として,遺産の帰属すべき主体を明示することなく,遺産が公共のために利用されるべき旨の文言を用いていることからすると,本件遺言は,右目的を達成することのできる団体等(原判決の挙げる国・地方公共団体をその典型とし,民法三四条に基づく公益法人あるいは特別法に基づく学校法人,社会福祉法人等をも含む。)にその遺産の全部を包括遺贈する趣旨であると解 するのが相当である。また,本件遺言に先立ち,本件遺言執行者指定の遺言書を作成してこれを被上告人に託した上,本件遺言のために被上告人に再度の来宅を求めたという前示の経緯をも併せ考慮すると,本件遺言執行者指定の遺言及びこれを前提にした本件遺言は,遺言執行者に指定した被上告人に右団体等の中から受遺者として特定のものを選定することをゆだねる趣旨を含むものと解するのが相当である。このように解すれば,遺言者であるDの意思に沿うことになり,受遺者の特定にも欠けるところはない。そして,前示の趣旨の本件遺言は,本件遺言執行者指定の遺言と併せれば,遺言者自らが具体的な受遺者を指定せず,その選定を遺言執行者に委託する内容を含むことになるが,遺言者にとって,このような遺言をする必要性のあることは否定できないところ,本件においては,遺産の利用目的が公益目的に限定されている上, 被選定者の範囲も前記の団体等に限定され,そのいずれが受遺者として選定されても遺言者の意思と離れることはなく,したがって,選定者における選定権濫用の危 険も認められないのであるから,本件遺言は,その効力を否定するいわれはないものというべき」としてこの遺言を有効としています。


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