9月, 2025年
再雇用社員と正社員の労働条件の相違
定年後継続雇用制度によって定年退職した後に再雇用されることがありますが,この再雇用社員と正社員との間の労働条件の相違が問題となることがあります。
基本給の相違が旧労働契約法20条にいう不合理と認められるかが問題となった最高裁令和5年7月20日判決は,「労働契約法20条は,有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期労 働契約を締結している労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができる ものであるか否かを検討すべきものである」とした上で,「原審は,正職員の基本給につき,一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり,他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず,また,嘱託職員の基本給についても,その性質及び支給の目的を何ら検討していない」「また,労使交渉に関する事情を労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては,労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず,その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される」「原審は,上記労使交渉につき,その結果に着目するにとどまり,上記見直しの要求等に対する上告人の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を勘案していない」「被上告人らに支給された嘱託職員一時金は,正職員の賞与と異なる基準によってではあるが,同時期に支給されていたものであり,正職員の賞与に代替するものと位置付けられていたということができるところ,原審は,賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない」「上告人は,被上告人X1の所属する労働組合等との間で,嘱託職員としての労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたが,原審は,その結果に着目するにとどまり,その具体的な経緯を勘案していない。このように,上記相違について,賞与及び嘱託職員一時金の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえることなく,また,労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま,その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には,同条の解釈適用を誤った違法がある」と判示して原審の判断を破棄しています。
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ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
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動機の錯誤における動機の表示
意思表示をする者が「法律行為の基礎とした事情」についてその「認識が真実に反する錯誤」(民法95条1項2号)を動機の錯誤と言いますが,この場合は「その事情が法律行為の基礎とされていること」が「表示されていたとき」でなければならない(同法同条2項)とされていることからその表示が問題となることがあります。
信用保証協会と金融機関との間の保証契約についての錯誤が問題となった最高裁平成28年12月19日判決は,「意思表示における動機の錯誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには,その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり,もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する。そして,動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である」「本件会社が中小企業者の実体を有することという被上告人の動機は,それが表示されていたとしても,当事者の意思解釈上,本件保証契約の内容となっていたとは認められず,被上告人の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである」と判示して動機が表示されていてもそれが法律行為の内容になっていないとして要素の錯誤の成立を否定しています。
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不動産の買戻しと譲渡担保の区別
担保のために財産を売却した上で買い戻すということが行われることがありますが,担保のために財産の所有権を移転するものとして譲渡担保が存在することからその財産の移転がそのどちらにあたるのかが問題となることがあります。
買戻特約付の売買契約の形式をとりながら目的不動産の占有移転を伴わない契約が問題となった最高裁平成18年2月7日判決は,「真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務」「を負わない(民法579条前段,580条,583条1項)。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。そして,真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,民法も,これを前提に,売主が売買契約を解除した場合,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は 譲渡担保契約と解するのが相当である」と判示して占有が移転しない場合は譲渡担保であるとしています。
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