10月, 2025年

通常損耗の原状回復義務を賃借人に負わせる合意

2025-10-27

 賃貸借契約が終了した場合,賃借人は賃借物を原状に復して賃貸人に返還することになりますが,賃借人がいかなる対象についてこの現状回復義務を負うのかが問題となります。

 この原状回復の対象について,通常損耗の原状回復義務を賃借人に負わせる合意が問題となった最高裁平成17年12月16日判決は,「賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣 化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」と判示して明確な合意が必要であるとしています。


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医師の患者に対する説明義務

2025-10-20

 診療を行う際に医師は患者に対し病状等の説明を行いますが,どこまで説明をする義務があるのかが問題となります。

 医療水準として未確立な治療法の説明義務に関し,最高裁平成13年11月27日判決は,「医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約に基づき,特別の事情のない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容と利害得失,予後などについて説明すべき義務があると解される」とした上で「一般的にいうならば,実施予定の療法(術式)は医療水準として確立したものであるが,他の療法(術式)が医療水準として未確立のものである場合には,医師は後者について常に説明義務を負うと解することはできない。とはいえ,このような未確立の療法(術式)ではあっても,医師が説明義務を負うと解される場合があることも否定できない。少なくとも,当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており,相当数の実施例があり,これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては,患者が当該療法(術式)の適応である可能性があり,かつ,患者が当該療法(術式)の自己への適応の有無,実施可能性について強 い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては,たとえ医師自身が当該療法(術式)について消極的な評価をしており,自らはそれを実施する意思を有していないときであっても,なお,患者に対して,医師の知っている範囲で,当該療法(術式)の内容,適応可能性やそれを受けた場合の利害得失,当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務があるというべきである」と判示して未確立な治療法についても説明義務を負うことを認めています。


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医師の診療と医療水準

2025-10-13

 医師が診察を行うときは医療水準に従わなければならないとされるところ,この医療水準をどのように考えるかが問題となります。

 新しい治療法が医療水準にあるかが問題となった最高裁平成7年6月9日判決は,「当該疾病の専門的研究者の間でその有効性と安全性が是認された新規の治療法が普及するには一定の時間を要し,医療機関の性格,その所在する 地域の医療環境の特性,医師の専門分野等によってその普及に要する時間に差異があり,その知見の普及に要する時間と実施のための技術・設備等の普及に要する時間との間にも差異があるのが通例であり,また,当事者もこのような事情を前提にして診療契約の締結に至るのである。したがって,ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり,右の事情を捨象して,すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして,新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており,当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,特段の事情が存しない限り,右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである」と判示して医療水準は当該医療機関の特性等に応じて判断されるとしています。


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医療関係訴訟における相当程度の可能性の存在

2025-10-06

 不法行為等による損害賠償責任が認められるためには結果との間の因果関係が必要となるところ,医療関係の訴訟では相当程度の可能性の存在という問題があります。

 この相当程度の可能性の存在について,国家賠償請求が問題となった最高裁平成17年12月8日判決は,「勾留されている患者の診療に当たった拘置所の職員である医師が,過失により患者を適時に外部の適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同病院において適切な医療行為を受けていたならば,患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,国は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害について国家賠償責任を負うものと解するのが相当である」とした上で「上告人について,速やかに外部の医療機関への転送が行われ,転送先の医療機関において医療行為を受けていたならば,上告人に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたということはできない。そして,本件においては,上告人に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されたということができない以上,東京拘置所の職員である医師が上告人を外部の医療機関に転送すべき義務を怠ったことを理由とする国家賠償請求は,理由がない」と判示して相当程度の可能性の存在が証明されていないとして国家賠償請求を否定しています。


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