11月, 2025年
三者間にまたがる相殺予約の効力
債務者が債権者に対して同種の債権を有する場合にその債権によってその債務を対当額において消滅させる意思表示が相殺(民法505条1項、506条1項)であるところ、一定の事由が生じたときに直ちに相殺の効力が生じるとする相殺予約が締結される場合があります。
この相殺予約が三者間で問題となった最高裁平成7年7月18日判決は、「本件相殺予約の趣旨は必ずしも明確とはいえず、その法的性質を一義的に決することには問題もなくはないが、右相殺予約に基づきD株式会社のした相殺が、実質的には、上告人に対する債権譲渡といえることをも考慮すると、上告人はD株式会社が被上告人の差押え後にした右相殺の意思表示をもって被上告人に対抗することができないとした原審の判断は、是認することができる」と判示しています。
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損害賠償から控除される中間利息への法定利率の適用
民法417条の2第1項は,「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において,その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率によい,これをする」として,将来に取得する金銭につき現時点で一括で支払われる場合にそれを運用したならば得られたであろう利益である中間利息を算定するときに法定利率によることを規定しています。
この規定が設けるものの判例ですが,最高裁平成17年6月14日判決は,「我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない。しかし,民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは,民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率,我が国の一般的な貸付金利を踏まえ,金銭は,通常の利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。そして,現行法は,将来の請求権を現在価額に換算するに際し,法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には,法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば,民事執行法88条2項 ,破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの) 46条5号も同様),民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項 1号,2号等は,いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって 現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても,法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから,民法は,民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって,事案ごとに,また,裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ,被害者相互間の公平の確保,損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。 上記の諸点に照らすと,損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならない」と判示しています。
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契約を規律する規範としての適合性の原則
金融商品取引法40条は,「金融商品取引行為について,顧客の知識,経験,財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って」はならないと規定しているところ,このルールを適合性の原則と言います。
この原則と不法行為との関係が問題となった最高裁平成17年7月14日判決は,「平成10年法律第107号による改正前の証券取引法54条1項1号,2号及び証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号)8条5号は,業務停止命令等の行政処分の前提要件としてではあるが,証券会社が, 顧客の知識,経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとならないように業務を営まなければならないとの趣旨を規定し,もって適合性の原則を定める(現行法の43条1号参照)。また,平成4年法律第73号による改正前の証券取引法の施行されていた当時にあっては,適合性の原則を定める明文の規定はなかったものの,大蔵省証券局長通達や証券業協会の公正慣習規則等において,これと同趣旨の原則が要請されていたところである。これらは,直接には,公法上の業務規制,行政指導又は自主規制機関の定める自主規制という位置付けのものではあるが,証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である」と判示してこの原則違反が不法行為となるとしています。
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数量指示売買における代金増額請求の可否
一定の面積,容積,重量,員数または尺度あることを売主が契約において表示し,かつ,この数量を基礎として代金額が定められた売買を数量指示売買といい,この売買でその面積等が合意された面積等を下回る場合に買主は,代金の減額請求等が出来る(民法565条)とされているところ,面積等の数量が超過する場合に代金の増額を請求できるのかという問題があります。
この問題について,最高裁平成13年11月27日判決は,「民法565条にいういわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。しかしながら,同条は数量指示売買に おいて数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから,数量指示売買において数量が超過する場 合に,同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできないと解するのが相当である」と判示して同条の類推適用による代金増額請求を否定しています。
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