Archive for the ‘雇用・労働’ Category
退職後の守秘義務と競業避止義務
退職した労働者が在職中に得た企業秘密を使用したり競業する企業に就職した場合には退職後の守秘義務・競業避止義務違反としてトラブルになることがあります。
① 退職後の守秘義務が問題となった裁判例を見ると、労働者が退職後に設立した会社に製品の溶接技術を開示した事案に関する大阪地裁平成10年12月22日判決は、この溶接技術を不正競争防止法(不競法)上の営業秘密と認めた上、その後の取引奪取行為と併せて不正競争として営業の差止と損害賠償請求を認め、また、東京地裁平成14年8月30日判決は、誓約書に基づく守秘義務違反として損害賠償請求を認めていますが、東京地裁平成24年3月13日判決は、使用者が適切な秘密管理を講じていないとして守秘義務違反を否定しています。
次に、
② 退職後の競業避止義務が問題となった裁判例を見ると、上記の大阪地裁平成10年12月22日判決は、営業秘密の使用・開示の差止請求を認めつつ、義務の内容が広範に過ぎることや期間が不当に長期にわたることなどを理由にして公序違反として競業避止義務を無効としていますが、東京地裁平成20年11月18日判決は、不競法上の営業秘密の保護を内容とする競業避止義務を有効としています。
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企業間での人事異動としての出向と転籍
企業間での人事異動として出向と転籍があります。出向は、労働者が使用者(出向元)との労働契約を維持しながら他の企業(出向先)の指揮命令に服して労働するもので一定期間が経過した後に復帰するのが通常であるのに対し、転籍は、従来の使用者(転籍元)との労働契約を終了させ新たに別の企業(転籍先)との労働契約関係に入るもので復帰を予定しないのが通常です。そこで、復帰を予定しているかどうかが出向と転籍を区別するひとつの要素となりますが、出向期間の延長によって復帰を予定しない形態のものもあり、この場合、どちらと見るべきかが問題となりますが、最高裁平成15年4月18日判決は、このような場合も元の使用者との労働契約が存続している限り出向にあたるとしています。
出向と転籍は他の企業への人事異動であることから労働者の地位を不安定にしたり労働条件を悪化させることがあり、出向・転籍後の労働条件・法律関係に関する紛争が増えています(東京地裁平成23年6月15日判決、東京地裁平成24年11月14日判決など)。
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日本の企業に雇用されている外国人の労働契約
企業活動の国際化に伴い日本においても外国人労働者が増加しており、日本国内にある日本企業に雇用されている外国人の労働契約にどの国の法律が適用されるのか(準拠法の決定)が問題となります。
この問題に関して、法の適用に関する通則法(通則法)7条は、「法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による」と規定していますので、労働契約の準拠法について当事者による明示の法選択があればそれによることになりますが、明示の法選択がない場合に通則法は、当該法律行為に最も密接な関係がある地の法(最密接関連地法)による(通則法8条1項)とした上、労働契約の特例として通則法12条3項で契約の履行地である労務給付地法を最密接関連地法と推定し、労務給付地法を特定できない場合には労働者を雇い入れた事業所の所在地の法である雇入事業所所在地法を最密接関連地法と推定することにしています。
この結果、当事者による明示の法選択がない場合、外国人労働者の労務給付地・雇入事業所所在地が日本であれば日本法が準拠法と推定されることになります。
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退職の意思表示の瑕疵と撤回
労働者の解雇についてはさまざまな法規制が存在するところ、解雇権の濫用に対する規制(労働契約法16条)を回避するために使用者が労働者に退職を勧奨することが少なくなく、退職の意思表示の瑕疵が問題となります。
退職の意思表示が詐欺・強迫(民法96条)や錯誤(民法95条)に基づくものであればその意思表示には瑕疵があることになります。そこで、東京地裁平成23年3月30日判決は、懲戒解雇の事由がないのに退職しなければ懲戒解雇になると誤信して退職を申し出たことを使用者が知っていた場合に要素の錯誤によってその退職の申し出は無効となるとしています。
また、一方的退職の場合はその意思表示が使用者に到達した時点で解約の効果が生ずるため撤回はできないと考えられますが、退職の意思表示が合意解約の申込みであれば、労働者は、一定期間中これを撤回することができる(大阪高裁平成16年3月30日決定)とされています。
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労働者の能力不足・成績不良による解雇
労働者の能力不足・成績不良・適格性の欠如は、労働者の解雇の理由となり、就業規則において「労働能率が劣り、向上の見込みがないとき」は解雇理由になるなどと規定されることがありますが、労働義務・付随義務違反といった債務不履行があるだけでは足りず、その事実が雇用を終了させてもやむをえないと認められる程度に達していることが必要で、能力不足等が解雇を正当化するのはそれが労働契約の継続を期待し難いほど重大な程度に達している場合に限られるとされています。
そこで、裁判例を見ると、配転や研修の機会を与えても能力・適格性が向上せず改善の余地がない場合は雇用の継続を期待し難いことから解雇は相当とされています(東京地裁平成15年12月22日判決、東京高裁平成25年3月21日判決)が、①問題となる能力・成績は容易に是正し難いほど不良であることを要し、また、たとえこのことが認められるとしても②指導・教育や職種転換(配転・降格)によって能力を活用する余地があればそれらの措置によって雇用を継続する努力が求められ(東京高裁平成25年4月24日判決)、東京地裁平成11年10月15日判決は、「労働能率が劣り、向上の見込みがないこと」という解雇理由による解雇が許されるのは、著しく労働能率が劣り向上の見込みがない場合に限られるところ人事考課の低さだけではこれに該当せず、教育・指導や配置転換の措置を尽くしていないとして解雇を無効としています。
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会計監査人の責任
会社法2条6号所定の大会社は、会計監査人を置かなければならない(会社法328条)とされています。また、大会社以外の株式会社は、定款で会計監査人を設置することが出来る(会社法326条2項)とされています。
そして、会社法では、会計監査人は、役員等に含まれる(会社法423条1項)とされ、会社に対する責任(会社法423条)と第三者に対する責任(会社法429条)を負うとされています。
かつては会計監査人の損害賠償責任が認められるケースは少なかったようですが、近時の裁判例を見ると、企業による不祥事の影響のためか、大阪地裁平成20年4月18日判決は、会計監査人の会社に対する責任を認めており、また、東京地裁平成21年5月21日判決は、会計監査人の投資家に対する責任を認めています。
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賃金の支払いにおける全額払の原則と相殺
賃金は労働者の生活を支えるものであることから、労働基準法(労基法)は、賃金が労働者に確実に渡るようにするため賃金の支払いに関するルールを定めており、その賃金の支払いに関するルールのひとつとして全額払の原則(労基法24条1項)があります。
全額払の原則とは、使用者は、法令が認めた例外(給与所得税の源泉徴収や社会保険料の控除)と労使協定による例外を除き、賃金の一部を控除して支払うことは許されずその全額を支払わなければならないというルールです。
そして、この原則との関係で、使用者が労働者に対して有する債権を自働債権とし賃金債権を受働債権として相殺することの可否が問題となるところ、通説・判例(最高裁昭和36年5月31日判決)は、使用者による相殺を24条違反として否定しています。
なお、使用者が労働者との合意によって賃金と相殺する相殺契約について、判例は、全額払の原則は労働者が自由な意思によって同意した場合にまで相殺を禁止する趣旨ではないとしてこれを適法としています(最高裁平成2年11月26日判決)。
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職務等級の引下げ
企業内での職務を等級に分類して等級ごとに賃金(基本給・職務給)を決める制度を職務等級制度といいます。そして、職務等級の引下げは賃金の不利益変更をもたらすため、使用者による一方的な引下げは許されず、労働者の同意または就業規則上の根拠規定が必要とされます。
そこで、この点が問題となった裁判例を見ると、産前産後休業・育児休業を取得した後に短時間勤務を希望した従業員の職務を軽度のものに変更するのに伴い役割グレードを引下げ、年棒を減額したケースにつき東京高裁平成23年12月27日判決が、職務の変更と役割グレードの引下げが連動せず運用されている場合には、職務の変更が有効であるとしても役割グレードを一方的に引下げることは出来ないと判示しています。
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2016年12月26日 公布された法令に関するお知らせ
- 公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(平成28年法律 第114号)
- 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成28年法律 第115号)
過去に公布された法令に関するお知らせ 取扱分野>>立法の動向>>会社法等
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撮影場所 – リバティ・ベル・センター (ペンシルバニア州フィラデルフィア)
取締役の責任を限定する経営判断の原則
取締役による経営判断の結果として会社が損害を被った場合に善管注意義務違反として損害賠償責任を負うことがありますが、経営の専門家である取締役が会社のために誠実に判断したがその判断が裏目に出た場合まで責任を問うことになると取締役の経営を萎縮させるおそれがあります。そこで、アメリカでは裁判所が取締役の判断を尊重する「経営判断の原則」が認められており、我が国においてもこの考え方を採用すべきとする見解が存在します。
そこで、経営判断に関して取締役の責任が問題となった近時の裁判例を見ると、最高裁平成22年7月15日判決は、事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられているとし、この場合における株式取得の方法や価格についても取締役が株式の評価額のほか取得の必要性、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することが出来、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないとして取締役の責任を否定しています。
これに対し、名古屋高裁平成25年3月28日判決は、金銭を払い込んだ会社の経営破綻によって償還を受けられなかったという事案につき、気分ひとつで約定された償還を履行しないことがあり得るような人物が支配する会社に対し、何らの担保もなくして更に15億円ものコマーシャルペーパーを引き受けることは、およそ経営の意思決定に参画する者の行動としては自殺的行為としか評価出来ないと言って取締役の責任を認めています。
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