Archive for the ‘経営’ Category
労働契約の内容となる就業規則の合理性
労働者と使用者との間の労働契約について労働契約法7条は、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によるものと規定しています。
この就業規則の効力について、最高裁昭和61年3月13日判決は、就業規則が労働者に対し一定の事項につき使用者の業務命令に服すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものである限りにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができるとしています。また、会社の都合による特別な場合のほかは満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後雇用契約を更新しないと定める就業規則の合理性について、最高裁平成30年9月14日判決は、期間雇用社員について労働契約法にいう合理的な労働条件を定めるものであるとしています。
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使用者の安全配慮義務と労働者のメンタルヘルス
使用者は、労働者に対しその安全に配慮する義務を負うとされるところ、労働者のメンタルヘルスに関してもこの安全配慮義務違反が問題となります。
この問題に関する裁判例を見ると、過重な業務によってうつ病が発症し増悪した場合に関し、最高裁平成26年3月24日判決は、使用者の安全配慮義務違反等に基づく損害賠償の額を定めるに当たり、当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺をすることはできないとしています。
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会社分割における労働契約の承継
会社分割においては、その事業に「主として従事する労働者」であって分割契約または分割計画に氏名が記載された者であるか、一定期間内に異議を申し出たかどうか等により労働契約の承継の有無が決まるとされています(労働契約承継法2条1項1号、3条、4条1項4項、5条1項3項)。
この労働契約の承継の効力について、最高裁平成22年7月12日判決は、労働契約の承継のいかんが労働者の地位に重大な変更をもたらし得るものであることから、分割会社が分割計画書を作成するに先立ち、承継される営業に従事する個々の労働者との間で協議を行わせ当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図ろうとする5条協議の趣旨からすると、承継法3条に基づき労働契約が承継対象となった特定の労働者との関係において5条協議が全く行われなかった場合及び5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分で法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができるとしています。
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予告なしの解雇の効力
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をし、30日前に予告をしない使用者は、労働者に対し、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない(労働基準法20条1項)とされています。
このように使用者が労働者を解雇しようとする場合に予告期間を置くことや予告手当の支払を要求されているにもかかわらず、本条所定の予告期間を置かず、また、予告手当の支払いをしないで使用者が労働者に対し解雇の通知をした場合について、最高裁昭和35年3月11日判決は、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後本条所定の30日の期間を経過するか又は通知後に本条所定の予告手当の支払いをしたときのいずれかのときから通常解雇の効力が生ずるとしています。
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営業譲渡と労働契約の承継
労働契約は使用者と労働者との間で締結されるところ、営業が譲渡された場合に労働契約が承継されるかどうかが問題となることがあります。
この問題に関する判例例を見ると、東京高裁平成17年5月31日判決が、営業譲渡に伴い譲渡人がその従業員と締結していた労働契約が当然に譲受人に承継されるものではないから、労働契約が営業譲渡に伴い譲渡人から譲受人に承継されるか否かは譲受人と譲渡人との間でその旨の特別の合意が成立しているか否かによるとし、譲渡人と譲受人の間の合意のうち①賃金等の労働条件を相当程度引き下げる改訂に異議のある従業員については個別に排除する②この目的を達成するために従業員全員に退職届を提出させて譲受人が再雇用するという形式を採り、退職届を提出しない従業員は譲渡人の解散を理由に解雇する旨の合意部分は民法90条に反するものとして無効となるとしています(最高裁平成18年5月16日決定は、この判断をを支持しています)。
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定年後の再雇用
労働契約の成立する場合として新規採用の他に再雇用の場合があります。
この再雇用が問題となった裁判例を見ると、労働契約の成立時期に関し最高裁昭和51年3月8日判決は、定年年齢到達後も「業務の都合によって会社が特に必要と認めた場合は嘱託として再雇用することがある」との就業規則の規定の下に定年退職後も特段の欠格事由のない限り当該労働者を直ちに嘱託として再雇用するとの労働慣行が確立している場合、営業成績や健康状態で特段の欠格事由のない労働者については定年退職した日の翌日に再雇用契約が成立したものといえるとしています。
なお、65歳までの雇用確保措置を定める高年法9条に関し、大阪高裁平成21年11月27日判決は、同法の改正経緯を踏まえると、事業主が転籍型の継続雇用制度を採用する場合、事業主と転籍先との間に同一企業グループの関係が存在するとともに転籍後も高年齢者の雇用が確保されるような関係性が認められなければならないと解するのが相当である。これらの関係性が認められる本件制度は同条1項2号で定める継続雇用制度に適合するものであり、事業主に同号違反を理由とした債務不履行や不法行為は成立しないとしています。
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採用の内々定とその取消
企業による採用において内定の前の状態として内々定というものが問題となることがあります。
この内々定の取消に関する裁判例として、福岡地裁平成22年6月22日判決は、内々定通知によって始期付解約権留保付労働契約が成立したとはいえないが、会社が行った内々定の取消通知は、経営環境の急速な悪化により新規学卒者の採用計画を取り止めるなどという極めて簡単なものであり、その後も会社が誠実な態度で対応をしたとはいい難いことからすると、本件内々定取消は、労働契約締結過程における信義則に反し、内々定者の就労への期待利益を侵害する不法行為を構成するとしています。
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出向命令・復帰命令に対する労働者の同意の要否
労働者の人事異動として、元の企業に在籍したまま他の企業で働く出向があるところ、この出向命令や出向からの復帰命令に対する労働者の同意の要否という問題があります。
この問題に関する裁判例を見ると、復帰命令に関し、最高裁昭和60年4月5日判決は、出向元が当該労働者に命ずる復帰は、指揮監督の変更を伴うが出向元での労務提供という当初の雇用契約の合意内容にかなうところであるから、これについては将来再び出向元に復帰することがない旨の合意が成立していたなどの特段の事由のない限り、当該労働者の同意を得る必要はないとしています。
また、出向命令に関し、最高裁平成15年4月18日判決は、入社時及び出向発令時の就業規則に社外勤務条項(出向条項)があり、また当該労働者に適用される労働協約にも同様の社外勤務条項(出向条項)があり、さらに労働協約である社外勤務協定において出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていたという事情の下では、会社は労働者の個別的同意なしに出向を命じることができるとしています。
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労働問題としての配転命令の有効性
労働者の人事異動として職務内容や勤務内容が長期間にわたって変わることを配転と言いますが、この配転命令の有効性が争われることがあります。
この配転命令の有効性が問題となった裁判例を見ると、転勤命令につき、最高裁昭和61年7月14日判決が、業務上の必要性が存しない場合、不当な動機・目的をもってなされた場合、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、当該転勤命令は権利の濫用となるとした上で、この判断において労働者の生活上の不利益が転勤に伴い通常甘受すべき程度のものである場合には、業務上の必要性は余人をもって替え難いという高度のものであることを要せず、労働者の適切配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化などのためのものでよいとしています。
また、退職従業員補充のための東京都内に存する事業所間の異動命令につき、最高裁平成12年1月28日判決は、保育の支障は容易に解消することができたという場合には、当該労働者の負うことになる不利益は、必ずしも小さくはないがなお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえないとしています。
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試用期間と本採用の拒否
企業による労働者の採用において試用期間と本採用の拒否という問題があります。
この問題に関する裁判例を見ると、最高裁昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件)が、一定の合理的な期間解約権を留保する試用期間を定めることも合理性をもち有効であるとした上で、いったん特定企業との間で試用期間を付して雇用関係に入った者は、当該企業との雇用関係の継続の期待の下に他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることを考慮すると、右の留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認される場合にのみ許されるとしています。なお、契約の期間の定めか試用期間であるかが問題となった事案について、最高裁平成2年6月5日判決は、労働者の新規採用に当たり、その適性を評価・判断するために雇用契約に期間を設けた場合に、右期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく試用期間であると解するのが相当であるとしています。
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