Archive for the ‘お知らせ’ Category
賠償予定の禁止と留学費用の返還
使用者は,労働契約の不履行について違約金を定めたり損害賠償額を予定することを禁止されている(労働基準法16条)ところ,退職者に対する留学費用等の返還請求が本条に反しないかが問題とされることがあります。
この問題に関する裁判例を見ると,東京地裁平成10年9月25日判決は,念書その他の合意書を作成させることなく,就業規則に基づき留学費用の返還を請求しているとして同法16条違反としています。
一方,平成14年4月16日判決は,労働契約とは別の返還義務を免除するという特約つきの金銭消費貸借契約であるとして同法16条違反ではないとしています。
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妊娠,出産に関する事由を理由とした不利益取扱いの禁止
労働法には女性労働者の保護に関する規定が置かれているところ,男女雇用機会均等法9条3項は,女性労働者の妊娠,出産,産前産後休業の請求,取得その他妊娠,出産に関する事由を理由として解雇その他の不利益取扱いをしてはならないと規定しています。
この妊娠,出産に関する事由を理由とした不利益取扱いの禁止に関する裁判例を見ると,最高裁平成26年10月23日判決が,「女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらない」としています。
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賃金の全額払いの原則と賃金債権の放棄
賃金は,原則としてその全額を支払わなければならない(労働基準法24条1項)とされているところ,この原則との関係で賃金債権の放棄が問題とされることがあります。
この賃金債権の放棄に関する裁判例を見ると,退職金債権の放棄について,最高裁昭和48年1月19日判決が,「本件退職金は,就業規則においてその支給条件が予め明確に規定され,被上告会社が当然にその支払義務を負うものというべきであるから,労働基準法一一条の「労働の対償」としての賃金に該当し,したがつて,その支払については, 同法二四条一項本文の定めるいわゆる全額払の原則が適用されるものと解するのが相当である。しかし,右全額払の原則の趣旨とするところは,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから,本件のように,労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に,右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない」としていますが,最高裁平成15年12月1日判決は,自由な意思によることが明確でないとして賃金債権の放棄の効力を否定しています。
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使用者の労働者に対する損害賠償請求
使用者は,労働契約の不履行について違約金を定めたり損害賠償額を予定する契約をしてはならないと労働基準法16条は規定していますが,この規定は,使用者からの労働者に対する損害賠償請求を禁止するものではないとされています。
使用者からの労働者に対する損害賠償請求が問題になった裁判例を見ると,最高裁昭和51年7月8日判決が,「使用者が,その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる」としています。
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賃金の直接払いの原則と賃金債権の譲渡
賃金は,直接労働者に対し支払わなければならない(労働基準法24条1項)とされているところ,この賃金債権が譲渡された場合にどうなるのかという問題があります。
この問題に関する裁判例を見ると,退職手当の受給権が譲渡された場合について,最高裁昭和43年3月12日判決が,「退職手当法による退職手当の給付を受ける権利については,その譲渡を禁止する規定がないから,退職者またはその予定者が右退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合に譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども,労働基準法二十四条一項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない。」旨を定めて,使用者たる貸金支払義務者に対し罰則をもつてその履行を強制している趣旨に徴すれば,労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても,その支払についてはなお同条が適用され,使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず,したがつて,右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当である。そして,退職手当法による退職手当もまた右にいう賃金に該当し,右の直接払の原則の適用があると解する以上,退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においても,国または公社はなお退職者に直接これを支払わなければならず,したがつて,その譲受人から国または公社に対しその支払を求めることは許されない」と判示しています。
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有期雇用労働者と無期雇用労働者の間での労働条件の相違
有期雇用労働者と無期雇用労働者とで労働条件が異なることがあるところ,期間の定めがあることにより有期雇用労働者の労働条件が無期雇用労働者の労働条件と異なる場合,その相違は職務の内容などを考慮して不合理と認められるものであってはならない(労働契約法20条)とされています。
この労働契約法20条が問題となった裁判例を見ると,平成30年6月1日判決(ハマキョウレックス事件)が,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであること, 同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうとしています。また,同じ日にでた最高裁平成30年6月1日判決(長澤運輸事件)が,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとしています。
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有期の労働契約から無期の労働契約への転換
労働契約においては期間の定めのあるもの(有期労働契約)と期間の定めのないもの(無期労働契約)があるところ,2012年に労働契約法の改正によって有期労働契約から無期労働契約への転換に関する労働契約法の改正が行われました。
その改正は,同一の使用者との間の2つ以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超えている労働者が使用者に対し,契約期間の満了日までに無期労働契約締結の申込をした場合には,使用者はその申込みを承諾したものとみなされるというものです(労働契約法18条1項前段)。
大学教員,高度専門的知識等を有する労働者,定年後の継続雇用者についてはこの転換の申込が認められるようになるまでの期間が延長されています(大学教員任期法7条等)。
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労働協約の改訂による労働条件の不利益変更の規範的効力
労働協約の改訂によって従来よりも労働者にとって不利な労働条件が定められることがありますが,このような場合に労働協約の規範的効力(労働組合法16条)が問題とされることがあります。
この問題に関する裁判例を見ると,定年及び退職金の算定方法を労働者に不利益に変更する労働協約について,最高裁平成9年3月27日判決が,「これにより上告人が受ける不利益は決して小さいものではないが,同協約が締結されるに至った以上の経緯,当時の被上告会社の経営状態,同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば,同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず,その規範的効力を否定すべき理由はない」としています。
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労働者が退職する際に支給される退職金の減額・不支給
労働契約や就業規則で制度化されている場合,退職するにあたって,労働者は,退職金請求権を有することになりますが,この場合においても退職金が減額されたり不支給とされたりすることがあります。
この退職金の減額・不支給に関する裁判例を見ると,退職金が減額される場合について,最高裁昭和52年8月9日判決は,「営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもつて直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められず,したがつて,被上告会社がその退職金規則において,右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき,その点を考慮して,支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも,本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば,合理性のない措置であるとすることはできない」としています。
また,退職金が不支給となる場合について,東京高裁平成15年12月11日判決は,「その退職金全額を不支給とするには,それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である」としています。
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正当な退職勧奨と不法行為を構成する退職強要
使用者が労働者に対し退職を促すこと(退職勧奨)は違法ではありませんが,それが退職強要になると違法と評価されることになります。
この退職勧奨と退職強要に関する裁判例を見ると,東京地裁平成23年12月28日判決が,退職勧奨について「勧奨対象となった労働者の⾃発的な退職意思の形成を働きかけるための 説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の⾃由な意思に委ねられるべきものである」,「使⽤者は,退職勧奨に際して,当該労働者 に対してする説得活動について,そのための⼿段・⽅法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使⽤者による正当な業務⾏為としてこれを⾏い得る」とする⼀⽅,「労働者の⾃発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて,当該労働者に 対して不当な⼼理的圧⼒を加えたり,⼜は,その名誉感情を不当に害するような⾔辞を⽤いたりすることによって,その⾃由な退職意思の形成を妨げるに⾜りる不当な⾏為ないし⾔動をすることは許され」ないとした上で,「退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても」「更に具体的かつ丁寧に説明⼜は説得活動をし,また,真摯に検討してもらえたのかどうかのやり取りや意向聴取をし,退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり,翻意を促したりすることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でなされたものでない限り,当然に許容される」としています。
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