Archive for the ‘お知らせ’ Category
土地工作物責任における瑕疵
民法717条1項は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う」と規定しています。
この瑕疵があるかどうかが問題となった裁判例を見ると、大審院昭和12年7月17日判決は、電気事業者が電気工作物規程に従って桑樹の間を通して高圧電流を通ずる電線を架設したところ、後に桑樹が生育したためそれに登った者が感電死した場合には、外部の状況の変化に対応した安全な処置を尽くさなかった点に瑕疵があるとしています。また、最高裁昭和46年4月23日判決は、踏切道の軌道施設は保安設備と併せ一体として考察されるべきであり、見通しが悪く交通・列車回数が多く過去数度に及ぶ事故のあった電車の踏切に保安設備が欠けている場合は、土地の工作物たる軌道施設の設置に瑕疵があるとしています。
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前の遺言と後の遺言の抵触による遺言の撤回
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従ってその遺言の全部又は一部を撤回することができます(民法1022条)。そして、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす(同法1023条1項)とされています。
前の遺言と後の遺言が「抵触」するかどうかが問題となった裁判例を見ると、大審院昭和18年3月19日判決が、金1万円を与える旨の遺言をした後、遺言者が右遺贈に代えて生前に金5000円を受遺者に贈与することとし受遺者もその後金銭の要求をしない旨を約した場合について、抵触するとし、また、最高裁昭和56年11月13日判決が、終生扶養を受けることを前提として養子縁組をした上その所有する不動産の大半を養子に遺贈する旨の遺言をした者が、その後養子に対する不信の念を深くし協議離縁をした場合について、抵触するとしています。
一方、最高裁昭和43年12月24日判決は、遺言による寄附行為に基づく財団設立行為がされて両者が競合する形式になった場合においても、右生前処分の寄附行為に基づく財団設立行為がいまだ主務官庁の許可を得ずその財団が設立されていない場合について、抵触しないとしています。
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遺留分減殺請求権を行使できる期間
被相続人の処分によって奪われることのない相続人に留保された相続財産の一定の割合を遺留分と言いますが、この遺留分に基づく減殺請求については、「遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから一年間行使しないときは、時効によって消滅する」とされています(民法1042条)。
この遺留分減殺請求権を行使できる期間に関する裁判例を見ると、減殺すべき贈与があったことを知った時の意義について、最高裁昭和57年11月12日判決は、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時と解すべきであるから、遺留分権利者が贈与の無効を信じて訴訟上争っているような場合はこれに当たらないとしながら、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを遺留分権利者が認識している場合には、その無効を信じているため遺留分減殺請求権を行使しなかったことがもっともと首肯し得る特段の事情が認められない限り、右贈与が減殺できることを知っていたと推認するのが相当であるとしています。
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業務行為の違法性
刑法35条は、法令による行為とともに「正当な業務による行為は、罰しない」と規定しています。
この業務行為の違法性が問題となった裁判例を見ると、宗教活動について、神戸簡裁昭和50年2月20日判決は、教会の牧師が刑罰法令に触れる行為をしながら救済を求めてきた少年に対し、自己省察をさせるため監督と指導に適当な教会に1週間程度隔離した行為は、手段方法においても正当であり、全体としての法秩序の理念にも反せず正当な業務行為として違法性を阻却されるとしています。
また、弁護活動について、最高裁昭和51年3月23日判決は、弁護人が被告人の利益を擁護するためにした行為が本条の適用を受けるためにはそれが弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮してそれが法秩序全体の見地から許容されるべきものと認められなければならず、その判断に際しては法令上の根拠を持つ職務活動が弁護目的達成との間に関連性があるか、被告人自身が行った場合に違法阻却が認められるかという諸点を考慮に入れるのが相当であるとしています。
また、取材活動について、最高裁昭和53年5月31日決定は、報道機関が取材の目的で公務員に秘密漏示を唆しただけで違法性が推定されるものではなく、真に報道の目的から出たものでその手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものであれば正当な業務行為として違法性を欠くが、取材の手段・方法が刑罰法令に触れなくとも取材対象者の人格の尊厳を著しく蹂躙するような態様のものである場合には正当な取材活動の範囲を逸脱し違法なものであるとしています。
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自首による刑の減軽
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に、自発的に自己の犯罪事実を申告し、その処分を求める意思表示を自首と言います。そして、自首が成立する場合、その刑は、任意的に減軽されます(刑法42条1項)。
この自首の成否に関する裁判例を見ると、東京高裁平成7年12月4日判決は、人を殺した者が犯行直後に自首を決意しそのまま派出所に赴いたが警察官が不在であったため、さらに110番通報して自己の氏名・犯罪事実を申告した場合には、派出所出頭8分後、電話通報2分前にその妻が通報していたため既に捜査機関に被告人の犯罪事実が発覚していたとしても、自首したものといえるとし、最高裁平成13年2月9日決定は、拳銃所持・発射罪について、捜査機関に発覚する前に申告したときは、使用した拳銃について虚偽の事実を述べたとしても自首が成立するとしています。
一方、東京高裁平成17年3年31日判決は、強盗の目的で被害者に暴行を加えて死亡させた者が暴行の動機・態様について隠して単なる傷害として警察に申告する行為は自首に当たらないとし、東京高裁平成17年6月22日判決は、自首そのものが犯人隠避行為に該当する場合は実質的にみて自己の犯罪事実の申告があったとは認められず、傷害致死の共同正犯者が他の共犯者の存在を隠ぺいするため単独犯行として警察に申告する行為は自首に当たらないとしています。
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心身喪失者・心身耗弱者の行為
刑法は、「心身喪失者の行為は、罰しない」(同法39条1項)、「心身耗弱者の行為は、その刑を減軽する」(同法39条2項)と定めています。
この心身喪失・耗弱に関する裁判例を見ると、大審院昭和6年12月3日判決が、心神喪失について、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力又はその弁識に従って行動する能力のない状態をいうとし、心神耗弱について、精神の障害がまだこのような能力を欠如する程度には達していないが、その能力が著しく減退した状態をいうとし、最高裁昭和58年9月13日決定は、本条にいう心身喪失又は心身耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所にゆだねられるべき問題であることはもとより、その前提となる生物学的、心理学的要素についても、右法律判断との関係で究極的には裁判所の評価にゆだねられるべき問題であるとしています。
また、最高裁平成20年4月25日判決は、責任能力判断の前提となる生物学的要素並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度についてはその診断は臨床精神医学の本分であることから、専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきであるとしています。
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罰金・科料を完納できない者に対する労役場留置
罰金・科料を完納することができない者は、労役場に留置されます(労役場留置、刑法18条)。
留置される期間は、罰金の場合は1日以上2年以下、科料の場合は1日以上30日以下で、罰金を併科した場合または罰金と科料とを併科した場合は3年、科料を併科した場合は60日を超えることができないとされています。そして、この範囲内で裁判官が留置の期間を定め、罰金・科料の言渡とともにこれを言い渡すとされています。また、罰金・科料の言渡を受けた者がその一部を納めたときは、その残額を留置1日の割合に相当する金額で除して得た日数を留置するとされています。
この留置1日に相応する金銭の換算率について、最高裁昭和24年10月5日判決は、必ずしも自由な社会における勤労の報酬額と同率に決定されるべきものではないとしています。
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未決勾留日数の本刑への任意通算(裁定算入)
裁判所は、勾留状による拘禁である未決勾留の日数の全部または一部を本刑に算入することができる(刑法21条、任意通算)とされています。
この任意通算の可否に関する裁判例を見ると、最高裁昭和30年12月26日判決は、同一被告人に対する数個の公訴事実を併合審理する場合に無罪となった公訴事実につき発せられた勾留状による未決勾留日数を他の有罪とした公訴事実の本刑に算入できるとし、最高裁昭和55年12月23日判決は、起訴されなかった住居侵入の事実についての未決勾留日数は、右と一罪の関係にある起訴された常習累犯窃盗の罪の本刑に算入できるとしています。
一方、最高裁昭和32年12月25日判決は、未決勾留中の被告人が他事件の確定判決により懲役刑の執行を受けるに至ったときは、懲役刑の執行と競合する未決勾留日数を本刑に算入できないとし、最高裁昭和40年7月9日判決は、他事件につき本刑である自由刑に算入された未決勾留と重複する未決勾留を、更に本件の本刑に裁定算入又は法定通算することはできないとし、最高裁昭和50年7月4日判決は、起訴されていない被疑事実についての未決勾留は、起訴事件の捜査に利用されたとしても起訴事件の本刑に算入できないとしています。
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常習累犯窃盗・強盗罪
盗犯等の防止及び処分に関する法律3条によって窃盗罪(刑法235条)、強盗罪(同法236条)等の加重事由とされているものとして常習累犯窃盗・強盗罪があります。
これは、①常習として、窃盗(同法235条)、強盗(同法236条)、事後強盗(同法238条)、昏睡強盗(同法239条)の各罪またはその未遂罪を犯した者で、②その行為の前10年内にこれらの罪またはこれらの罪と他の罪との併合罪について、③3回以上、6月の懲役以上の刑の執行を受けまたはその執行の免除を得た者に対して刑を科すべきときは、④窃盗をもって論ずべきときは3年以上、強盗をもって論ずべきときは7年以上の有期懲役に処するとするものです。
この常習累犯窃盗・強盗罪に関する裁判例を見ると、東京高裁昭和27年2月21日判決は、刑の執行を受けるという要件について、執行の着手があればよいとしています。また、大審院昭和14年7月14日判決は、犯人の罪が同時に刑法56条の累犯の要件を具備するときは、さらに累犯加重がなされるとしています。
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刑の執行猶予の要件
刑の言渡しをする場合において、情状によって一定期間内その執行を猶予し、その期間を無事経過したときに刑の言渡しはその効力を失うとする制度を執行猶予と言います(刑法25条等)。
この執行猶予は、①前に禁固以上の刑に処せられたことがない者か、②前に禁固以上の刑に処せられたことがあってもその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者が、三年以下の懲役・禁固または五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときに情状により認められます。また、再度の執行猶予の場合はその要件が厳格になり、一年以下の懲役・禁固の言渡しを受けたときに情状に特に酌量すべきものがあるときに認められます。執行猶予の期間は、裁判確定の日から一年以上五年以下とされています(同法同条1項)。
この執行猶予の要件に関する裁判例を見ると、「前に」の意味について、最高裁昭和31年4月13日判決は、執行猶予を言い渡す判決の以前にという意味であり、既に刑に処せられた罪が現に審判すべき犯罪の前後いずれは問わないとしています。また、「禁固以上の刑に処せられたことがない者」の意味について、最高裁昭和24年3月31日判決は、禁固以上の確定判決を受けたことのない者をいい、その執行を受けなかった者を意味しないとしています。
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