従業員の引き抜きによる不法行為
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企業間における従業員の引き抜きについて,不法行為の成否が問題となることがあります。
① 退職前の引き抜き
退職前の引き抜きに関し,東京地裁平成3年2月25日判決は,「企業間における従業員の引抜行為の是非の問題は,個人の転職の自由の保障と企業の利益の保護という二つの要請をいかに調整するかという問題でもあるが,個人の転職の自由は最大限に保障されなければならないから,従業員の引抜行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえず,したがって,右転職の勧誘が引き抜かれる側の会社の幹部従業員によって行われたとしても,右行為を直ちに雇用契約上の誠実義務に違反した行為と評価することはできないというべきである。しかしながら,その場合でも,退職時期を考慮し,あるいは事前の予告を行う等,会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきであり(従業員は,一般的に二週間前に退職の予告をすべきである。民法六二七条一項参照),これをしないばかりか会社に内密に移籍の計画を立て一斉,かつ,大量に従業員を引き抜く等,その引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え,社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には,それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして,債務不履行あるいは不法行為責任を負うというべきである」としています。
② 退職後の引き抜き
退職後の引き抜きに関し,東京地裁平成5年8月25日判決は,「会社の取締役又は従業員は,その退任後又は雇用関係終了後においては,その一切の法律関係から解放されるのであって,在任又は在職中に知り得た知識や人間関係等をその後自らの営業活動のために利用することも,それが旧使用者の財産権の目的であるような場合又は法令の定め若しくは当事者間の格別の合意があるような場合を除いては,原則として自由なのであって,退任ないし退職した者が,旧使用者に雇用されていた地位を利用して,その保有していた顧客,業務ノウハウ等を違法又は不当な方法で奪取したものと評価すべきようなときでない限り,退任ないし退職した者が旧使用者と競業的な事業を開始し営業したとしても,直ちにそれが不法行為を構成することにはならない」としています。一方,東京地裁平成6年11月25日判決は,元従業員等の競業行為が,雇傭者の保有する営業秘密について不正競争防止法で規定している不正取得行為,不正開示行為等(同法二条一項四号ないし九号参照)に該当する場合はもとより,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇傭者の顧客等を奪取したとみれるような場合,あるいは,雇傭者に損害を加える目的で一斉に退職し会社の組織的活動等が機能しえなくなるようにした場合等も,不法行為を構成することがある」としています。
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