Archive for the ‘企業法務’ Category

労働者に対する降格・減給

2022-03-07

   賃金は労働者の生活の糧として労働者に大きな影響を及ぼします。そのため、賃金にかかわる降格・減給が争いになることがあります。

   この降格・減給に関する裁判例を見ると、東京地裁平成12年1月31判決は、備っていると判断された職務遂行能力が営業成績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格させることを予定していない一般的な職能資格制度の下では、労働者の自由意思に基づいてなされた同意等の法的根拠なく、使用者が降格や職能給の減額措置を行うことはできないとしています。

   また、東京地裁平成16年3月31日判決は、労働契約の内容として成果主義による基本給の降給が定められている場合であっても降給が許容されるためには、さらに降給が決定される過程に合理性があること、その過程が従業員に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続が存することが必要である。降給の仕組み自体に合理性と公正さが認められその仕組みに沿った降給の措置が採られた場合には、個々の従業員の評価の過程に特に不合理ないし不公正な事情が認められない限り、当該降給の措置は当該仕組みに沿って行われたものとして許容されるとしています。


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採用の内々定とその取消

2022-02-28

   企業による採用において内定の前の状態として内々定というものが問題となることがあります。

   この内々定の取消に関する裁判例として、福岡地裁平成22年6月22日判決は、内々定通知によって始期付解約権留保付労働契約が成立したとはいえないが、会社が行った内々定の取消通知は、経営環境の急速な悪化により新規学卒者の採用計画を取り止めるなどという極めて簡単なものであり、その後も会社が誠実な態度で対応をしたとはいい難いことからすると、本件内々定取消は、労働契約締結過程における信義則に反し、内々定者の就労への期待利益を侵害する不法行為を構成するとしています。


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出向命令・復帰命令に対する労働者の同意の要否

2022-02-21

   労働者の人事異動として、元の企業に在籍したまま他の企業で働く出向があるところ、この出向命令や出向からの復帰命令に対する労働者の同意の要否という問題があります。

   この問題に関する裁判例を見ると、復帰命令に関し、最高裁昭和60年4月5日判決は、出向元が当該労働者に命ずる復帰は、指揮監督の変更を伴うが出向元での労務提供という当初の雇用契約の合意内容にかなうところであるから、これについては将来再び出向元に復帰することがない旨の合意が成立していたなどの特段の事由のない限り、当該労働者の同意を得る必要はないとしています。

   また、出向命令に関し、最高裁平成15年4月18日判決は、入社時及び出向発令時の就業規則に社外勤務条項(出向条項)があり、また当該労働者に適用される労働協約にも同様の社外勤務条項(出向条項)があり、さらに労働協約である社外勤務協定において出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていたという事情の下では、会社は労働者の個別的同意なしに出向を命じることができるとしています。


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労働問題としての配転命令の有効性

2022-02-14

   労働者の人事異動として職務内容や勤務内容が長期間にわたって変わることを配転と言いますが、この配転命令の有効性が争われることがあります。

   この配転命令の有効性が問題となった裁判例を見ると、転勤命令につき、最高裁昭和61年7月14日判決が、業務上の必要性が存しない場合、不当な動機・目的をもってなされた場合、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、当該転勤命令は権利の濫用となるとした上で、この判断において労働者の生活上の不利益が転勤に伴い通常甘受すべき程度のものである場合には、業務上の必要性は余人をもって替え難いという高度のものであることを要せず、労働者の適切配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化などのためのものでよいとしています。

   また、退職従業員補充のための東京都内に存する事業所間の異動命令につき、最高裁平成12年1月28日判決は、保育の支障は容易に解消することができたという場合には、当該労働者の負うことになる不利益は、必ずしも小さくはないがなお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえないとしています。


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試用期間と本採用の拒否

2022-02-07

   企業による労働者の採用において試用期間と本採用の拒否という問題があります。

   この問題に関する裁判例を見ると、最高裁昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件)が、一定の合理的な期間解約権を留保する試用期間を定めることも合理性をもち有効であるとした上で、いったん特定企業との間で試用期間を付して雇用関係に入った者は、当該企業との雇用関係の継続の期待の下に他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることを考慮すると、右の留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認される場合にのみ許されるとしています。なお、契約の期間の定めか試用期間であるかが問題となった事案について、最高裁平成2年6月5日判決は、労働者の新規採用に当たり、その適性を評価・判断するために雇用契約に期間を設けた場合に、右期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく試用期間であると解するのが相当であるとしています。


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採用内定とその取消の可否

2022-01-31

   企業による労働者の採用過程にはいくつかの段階があるところ、いわゆる採用内定という段階の法的性質やその取消の可否が問題となることがあります。

   この問題に関する裁判例を見ると、最高裁昭和54年7月20日判決は、本件採用内定通知と誓約書の提出があいまって、企業と採用内定者との間に、就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間誓約書記載の取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したといえるとした上で、右の留保解約権に基づく採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であってこれを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できるものに限られるとしています。そして、最高裁昭和55年5月30日判決は、市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をした事実が判明しこのことを理由になされた採用内定の取消しは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができるとしています。


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採用の自由とその法律による制限

2022-01-24

 労働者の採用について、企業には採用の自由が認められます。

 この企業の採用の自由について、最高裁昭和48年12月12日判決(三菱樹脂事件)は、「企業者は」「契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」としています。

 もっとも、法律による制限として、①男女雇用機会均等法による募集・採用における女性差別の禁止、②労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律9条による「年齢にかかわりなく均等な機会を与え」ることの義務付け、③障害者の雇用の促進等に関する法律34条による募集・採用時における障害者の差別禁止が存在します。


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労使慣行の法的効力

2022-01-17

   労働条件に関する事項などについて就業規則・労働協約に規定はないが労働者と使用者との間のルールになっているものを労使慣行と言います。

   この労使慣行に関する裁判例を見ると、大阪高裁平成5年6月25日判決が、法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要するとしています(最高裁平成7年3月9日判決はこの結論を是認しています)。


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就業規則の合理性と就業規則の拘束力

2022-01-11

   労働者の労働条件を決めるものとして就業規則が存在し、労働契約法7条は、「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と規定しています。

   上記の就業規則の合理性や拘束力が問題となった裁判例を見ると、最高裁昭和61年3月13日判決は、就業規則が労働者に対し一定の事項につき使用者の業務命令に服すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものである限りにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができ、使用者はこの労働契約に基づいて業務命令を発することができるとしています。

   また、最高裁平成15年10月10日判決は、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためにはその内容を適用される事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するとしています。


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労働組合の自主性

2022-01-05

   労働組合は、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」(労働組合法2条本文)と定義されているところ、同法はその但書1号において「使用者の利益を代表する者」が参加してはならないとしていることから、管理職組合などが本条の労働組合に当たるのかが問題となります。

   この問題に関する裁判例を見ると、東京高裁平成12年2月29日判決が、使用者の利益代表者の参加を許す労働組合は、本条の要件を欠き労組法5条1項により労働委員会の救済手続を享受することはできないが、かような組合も使用者と対等関係に立ち自主的に結成された統一的な団体であれば同法7条2号の「労働者の代表者」に含まれるので、利益代表者の参加により適正な団体交渉の遂行を期し難い特別な事情を使用者において明らかにした場合は格別、当該組合に利益代表者が参加していたとしても、また参加していないことを使用者に対し明らかにしていないとしてもそのこと自体が団体交渉拒否の正当な理由になるものではないとして、本件組合は本条の労働組合に当たるとしており、最高裁平成13年6月14日決定は、この上告を棄却しています。


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