Archive for the ‘企業法務’ Category
MBOと取締役の善管注意義務
MBOとは、M&A(企業の合併・買収)の一形態で、平成19年9月4日に経済産業省が発表した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」では、「現在の経営者が資金を出資し、事業の継続を前提として対象会社の株式を購入すること」とされていますが、取締役である経営者は善管注意義務を負うことから、MBOと取締役としての善管注意義務との関係が問題となります。
この点に関し、東京地裁平成23年2月18日判決は、取締役は、善管注意義務の内容として「株主の共同利益に配慮する義務」を負うとしています。また、神戸地裁平成26年10月16日判決は、取締役は、MBOの実施にあたり、善管注意義務の一環として「企業価値の向上に資する内容のMBOを立案、計画した上で、その実現に向け、尽力すべき義務」を負うとし、これに由来するものとして「自己または第三者の利益を図るために、その職務上の地位を利用してMBOを計画、実行したり、あるいは著しく合理性に欠けるMBOを実行しない義務」を負うとしています。
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労働者の人事異動としての降格
企業の中における人事異動として昇進・昇格・降格があるところ、降格が認められるかどうかが裁判上問題となっています。
① 役職の引下げとしての降格について、使用者は、就業規則に特別の根拠がなくても人事権により降格を命じることができる(東京高裁平成21年11月4日判決)とされていますが、退職に追い込むことを意図した降格を権利の濫用とした裁判例(東京地裁平成7年12月4日判決)があります。
② 資格の引下げとしての降格を命じるには、労働者の同意または就業規則・給与規程上の根拠が必要とされています(東京地裁平成8年12月11日決定)。
③ 職務等級の引下げとしての降格を命じるにも、労働者の同意または就業規則上の根拠が必要とされ、東京高裁平成23年12月27日判決は、職務の変更と役割グレードの引下げが分離して運用されている場合は、職務の変更が有効でも役割グレードを一方的に引き下げることはできないとしています。
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会社が倒産した場合における賃金債権の保護
1 破産手続
会社について破産手続が開始した場合、破産手続の開始する前3か月間の使用人(労働者)の給料請求権は、財団債権とされます(破産法149条1項)。
また、破産手続が終了する前に退職した使用人の退職手当の請求権は、退職する前の3か月間の給料の総額(その総額が破産手続の開始する前3か月間の給料の総額より少ない場合は、破産手続の開始する前3か月間の給料の総額)に相当する額についてのものが財団債権とされます(破産法149条2項)。また、破産手続の開始する前に雇用関係から生じた賃金債権その他の債権で財団債権とならないものは、一般先取特権のある優先的破産債権とされます(破産法98条1項)。
2 会社更生手続
会社について会社更生手続が開始した場合、更生手続の開始決定前6か月間及び手続の開始後に生じた賃金債権は、共益債権とされます(会社更生法130条、127条2号5号、132条)。
一方、それ以外の賃金債権は、更生債権とされますが、更生計画の中で更生担保権に次いで優先されます(会社更生法168条1項)。
3 民事再生手続
会社について民事再生手続が開始した場合、手続の開始決定前に生じた賃金債権等は、一般先取特権のある一般優先債権とされます(民事再生法122条)。一方、手続の開始した後に生じた賃金債権等は、共益債権とされます(民事再生法119条2号、121条)。
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企業における教育訓練・能力開発
労働者に必要な職業能力を身につけさせるために企業において教育訓練が行われることがありますが、能力開発促進法は、労働者の職業能力の開発・向上に対する援助を事業主の責務とし(同法4条1項)、そのための機会確保措置として業務の遂行の過程内における職業訓練、業務の遂行の過程外における職業訓練等の訓練(同法9条)、労働者が行う職業能力開発の支援(同法10条の2、10条の3)について規定しています。
また、使用者は、人事権により教育訓練・能力開発の受講を命じることができるとされ、安全衛生・職場規律に関するものなど業務との関連性の認められる受講命令は認められます(東京高裁昭和52年1月26日判決)が、文化・一般教養研修など業務との関連性が乏しい事項に関する受講命令は許されない可能性があります。
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新しい民法(7)債権の消滅時効における時効期間と起算点
現行民法では、債権の消滅時効における時効期間と起算点について、「権利を行使することができる時から10年」としています(民法166条1項、167条1項)が、改正法では、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」か、「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」に時効によって消滅する(改正民法166条1項)としています。
また、現行民法は、170条から174条で短期消滅時効について規定していますが、改正法は、これらの規定を削除しています。
さらに、改正法は、定期金債権について、行使することができることを知ったときから10年間行使しないときか、これらの各債権を行使することができるときから20年間行使しないときは、時効によって消滅する(改正民法168条1項)とし、生命、身体の侵害による損害賠償請求権について、5年間と20年間のいずれかによって時効消滅する(改正民法167条、724条の2)としています。
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新しい民法(6)賃貸借における敷金と原状回復
現行法では、敷金という用語が使われています(民法316条、619条2項)がその意義などについての規定が存在しなかったところ、改正法は、敷金の意義等について規定しています。また、現行法では、内容が不明確であったところ、改正法は、原状回復義務の範囲などについて規定しています。
まず、改正法は、敷金の意義について、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」としています。
また、敷金返還債務について、
①賃貸借が終了し、かつ、目的物が返還されたとき、
②別段の合意がない限り、賃借人が適法に賃借権を譲渡したときに生ずるとしています。
さらに、敷金の充当について、賃貸物の返還時または賃借権の適法な譲渡時において、賃貸借に基づく賃借人の賃貸人に対する金銭債務が残存するときは、敷金はその債務の弁済に当然に充当されるとし、また、敷金返還債務が生ずる前であっても、賃貸人の意思表示により敷金の充当ができるとしています(以上、改正民法622条の2)。
次に、改正法は、賃借人の収去義務について、使用貸借の規定を準用し、
①賃借人が賃借物を受け取った後にこれに附属させたものについては賃借人が収去義務を負うとする一方、附属物を分離することができない場合や附属物の分離に過分の費用を要する場合には、賃借人は、収去義務を負わないとしています(改正民法622条、599条)。
また、改正法は、原状回復義務について、賃借人は、賃借物に生じた通常損耗については原状回復義務を負わないとし、また、その他の損傷についても賃借人の帰責事由によらないものについては現状回復義務を負わないとしています(改正民法621条)。
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新しい民法(5)売買契約における売主の瑕疵担保責任
現行民法における売主の瑕疵担保責任の法的性質については、法定責任説、債務不履行説などが主張されていますが、改正法は、債務不履行説の立場に立って条文を整理したと説明されています。
まず、責任を負う場合について、改正法は、「瑕疵」という文言を使わず、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない(契約不適合)ものであるときと規定しています。また、契約不適合が「隠れた」ものであること、買主が善意であることを要求していません(以上、改正民法562条1項)。また、現行民法571条を削除して改正民法533条において同時履行の関係に立つ債務として債務の履行に代わる損害賠償債務を規定しています。
次に、改正法は、契約不適合があった場合に買主は、売主に対し、売主の帰責事由の有無を問わず追完請求権を行使できる(改正民法562条1項、565条)が、履行不能になっている場合や買主に帰責事由がある場合には行使できない(改正民法412条の2、562条2項、565条)としています。なお、追完の方法は、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しでその選択は買主が行いますが、売主の選択する方法が買主に不相当な負担を課すものでない場合には、売主は、買主の選択と異なる方法によることができる(改正民法562条1項)とされています。
また、改正法は、契約不適合があった場合に買主は、売主に対し、売主の帰責事由の有無を問わず代金減額請求権を行使できるとしていますが、追完が不能・売主が追完を拒絶する意思を明確に示した・定期行為の時期が経過した・追完を受ける見込みがないことが明らかであるときを除いて、相当な期間を定めて追完を催告することが必要であり(改正民法563条1項・2項、565条)、また、買主に帰責事由がある場合には行使できない(改正民法563条3項)としています。なお、解除及び損害賠償請求の要件・効果は、債務不履行の一般原則(改正民法564条)によることになります。
また、改正法は、権利を行使できる期間について、目的物の種類・品質が契約不適合の場合にはそれを知った時から1年(改正民法566条)としましたが、その他の場合については特則を設けていません。
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新しい民法(4)事業者が作成した約款に基づく取引
現行民法には約款に関する規定がありませんが、事業者が作成した約款に基づく取引が広く行われていることから、改正法では定型約款に関する規定が設けられます。
まず、適用の対象となる定型約款について、定型取引において契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体、定型取引について、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものと定義(改正民法548条の2第1項)しています。
また、定型約款が契約の内容になる場合について、
①定款約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、
②定款約款の準備者があらかじめその定款約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときのいずれかを満たす状況で定型取引合意がなされた場合としています(改正民法548条の2第1項)。
なお、定型約款の準備者は、定型取引合意前か定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、定型約款の内容を開示しなければならない(改正民法548条の3)とされています。
また、定款約款の効力について、
①相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であり、
②その定型取引の態様およびその実状並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる定款約款の条項は、合意をしなかったものとみなす(改正民法548条の2第2項)とされています。
さらに、定款約款の変更について、
①相手方の一般の利益に適合するときか
②契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性などの変更に係る事情に照らして合理的なもので、効力の発生時期を定め、約款変更する旨、変更後の約款内容、その効力の発生時期を周知しなければならない(改正民法548条の4第2項)とされています。
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新しい民法(3)法定利率の固定と変動
法定利率について、現行法は年5分と定めています(民法404条)が、改正法では、当初年3%とし、3年を1期として1期ごとに見直される(改正民法404条)ことになりました。また、この改正にあわせて商法514条が削除され、年6分の商事法定利率が廃止されることになりました。
また、現行法における金銭債務の損害賠償額の算定についての特則(民法419条1項)に関して、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率による(改正民法419条1項)ことにして、事後的に法定利率に変更があってもその影響を受けないようにしました。
また、現行法には明文の規定がありませんが、改正法では、損害賠償の額を定める場合に利息相当額を控除するときは法定利率によることが明文化されました(改正民法417条2項)。
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新しい民法(2)保証人の保護の拡充
保証人が過酷な責任を負うことが少なくないところ、保証人の保護という観点からの改正が行われます。
まず、
①保証債務の付従性(改正民法448条2項)、主たる債務者の有する抗弁等(改正民法457条2項・3項)の内容の明文化、保証人の求償権(改正民法459条1項、459条の2、460条3号、462条)、通知義務(改正民法463条)の内容の明確化、連帯保証人に生じた事由の効力の相対的効力への変更(改正民法458条、441条)といった改正が行われます。
また、
②個人根保証契約への極度額の規律の適用(改正民法465条の2、465条の5)、元本の確定事由の規律の適用(改正民法465条の4)の拡大といった改正が行われます。
さらに、
③経営者保証の場合を除いて、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約の締結にあたっての公正証書による保証意思確認手続の義務付け(改正民法465条の6から465条の8)、保証人に対する情報提供の義務付け(改正民法458条の2、458条の3、465条の10)といった改正が行われます。
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