賃金の全額払いの原則と賃金債権の放棄
賃金は,原則としてその全額を支払わなければならない(労働基準法24条1項)とされているところ,この原則との関係で賃金債権の放棄が問題とされることがあります。
この賃金債権の放棄に関する裁判例を見ると,退職金債権の放棄について,最高裁昭和48年1月19日判決が,「本件退職金は,就業規則においてその支給条件が予め明確に規定され,被上告会社が当然にその支払義務を負うものというべきであるから,労働基準法一一条の「労働の対償」としての賃金に該当し,したがつて,その支払については, 同法二四条一項本文の定めるいわゆる全額払の原則が適用されるものと解するのが相当である。しかし,右全額払の原則の趣旨とするところは,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから,本件のように,労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に,右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない」としていますが,最高裁平成15年12月1日判決は,自由な意思によることが明確でないとして賃金債権の放棄の効力を否定しています。
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