11月, 2022年

賃金の全額払いの原則と賃金債権の放棄

2022-11-28

   賃金は,原則としてその全額を支払わなければならない(労働基準法24条1項)とされているところ,この原則との関係で賃金債権の放棄が問題とされることがあります。

   この賃金債権の放棄に関する裁判例を見ると,退職金債権の放棄について,最高裁昭和48年1月19日判決が,「本件退職金は,就業規則においてその支給条件が予め明確に規定され,被上告会社が当然にその支払義務を負うものというべきであるから,労働基準法一一条の「労働の対償」としての賃金に該当し,したがつて,その支払については, 同法二四条一項本文の定めるいわゆる全額払の原則が適用されるものと解するのが相当である。しかし,右全額払の原則の趣旨とするところは,使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し,もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ,労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから,本件のように,労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に,右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない」としていますが,最高裁平成15年12月1日判決は,自由な意思によることが明確でないとして賃金債権の放棄の効力を否定しています。


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使用者の労働者に対する損害賠償請求

2022-11-21

   使用者は,労働契約の不履行について違約金を定めたり損害賠償額を予定する契約をしてはならないと労働基準法16条は規定していますが,この規定は,使用者からの労働者に対する損害賠償請求を禁止するものではないとされています。

   使用者からの労働者に対する損害賠償請求が問題になった裁判例を見ると,最高裁昭和51年7月8日判決が,「使用者が,その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができる」としています。


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賃金の直接払いの原則と賃金債権の譲渡

2022-11-14

   賃金は,直接労働者に対し支払わなければならない(労働基準法24条1項)とされているところ,この賃金債権が譲渡された場合にどうなるのかという問題があります。

   この問題に関する裁判例を見ると,退職手当の受給権が譲渡された場合について,最高裁昭和43年3月12日判決が,「退職手当法による退職手当の給付を受ける権利については,その譲渡を禁止する規定がないから,退職者またはその予定者が右退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合に譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども,労働基準法二十四条一項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない。」旨を定めて,使用者たる貸金支払義務者に対し罰則をもつてその履行を強制している趣旨に徴すれば,労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても,その支払についてはなお同条が適用され,使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず,したがつて,右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当である。そして,退職手当法による退職手当もまた右にいう賃金に該当し,右の直接払の原則の適用があると解する以上,退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においても,国または公社はなお退職者に直接これを支払わなければならず,したがつて,その譲受人から国または公社に対しその支払を求めることは許されない」と判示しています。


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有期雇用労働者と無期雇用労働者の間での労働条件の相違

2022-11-07

   有期雇用労働者と無期雇用労働者とで労働条件が異なることがあるところ,期間の定めがあることにより有期雇用労働者の労働条件が無期雇用労働者の労働条件と異なる場合,その相違は職務の内容などを考慮して不合理と認められるものであってはならない(労働契約法20条)とされています。

   この労働契約法20条が問題となった裁判例を見ると,平成30年6月1日判決(ハマキョウレックス事件)が,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであること, 同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうとしています。また,同じ日にでた最高裁平成30年6月1日判決(長澤運輸事件)が,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとしています。


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