Archive for the ‘雇用・労働’ Category
正当な退職勧奨と不法行為を構成する退職強要
使用者が労働者に対し退職を促すこと(退職勧奨)は違法ではありませんが,それが退職強要になると違法と評価されることになります。
この退職勧奨と退職強要に関する裁判例を見ると,東京地裁平成23年12月28日判決が,退職勧奨について「勧奨対象となった労働者の⾃発的な退職意思の形成を働きかけるための 説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の⾃由な意思に委ねられるべきものである」,「使⽤者は,退職勧奨に際して,当該労働者 に対してする説得活動について,そのための⼿段・⽅法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使⽤者による正当な業務⾏為としてこれを⾏い得る」とする⼀⽅,「労働者の⾃発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて,当該労働者に 対して不当な⼼理的圧⼒を加えたり,⼜は,その名誉感情を不当に害するような⾔辞を⽤いたりすることによって,その⾃由な退職意思の形成を妨げるに⾜りる不当な⾏為ないし⾔動をすることは許され」ないとした上で,「退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても」「更に具体的かつ丁寧に説明⼜は説得活動をし,また,真摯に検討してもらえたのかどうかのやり取りや意向聴取をし,退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり,翻意を促したりすることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でなされたものでない限り,当然に許容される」としています。
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従業員の引き抜きによる不法行為
企業間における従業員の引き抜きについて,不法行為の成否が問題となることがあります。
① 退職前の引き抜き
退職前の引き抜きに関し,東京地裁平成3年2月25日判決は,「企業間における従業員の引抜行為の是非の問題は,個人の転職の自由の保障と企業の利益の保護という二つの要請をいかに調整するかという問題でもあるが,個人の転職の自由は最大限に保障されなければならないから,従業員の引抜行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえず,したがって,右転職の勧誘が引き抜かれる側の会社の幹部従業員によって行われたとしても,右行為を直ちに雇用契約上の誠実義務に違反した行為と評価することはできないというべきである。しかしながら,その場合でも,退職時期を考慮し,あるいは事前の予告を行う等,会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきであり(従業員は,一般的に二週間前に退職の予告をすべきである。民法六二七条一項参照),これをしないばかりか会社に内密に移籍の計画を立て一斉,かつ,大量に従業員を引き抜く等,その引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え,社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には,それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして,債務不履行あるいは不法行為責任を負うというべきである」としています。
② 退職後の引き抜き
退職後の引き抜きに関し,東京地裁平成5年8月25日判決は,「会社の取締役又は従業員は,その退任後又は雇用関係終了後においては,その一切の法律関係から解放されるのであって,在任又は在職中に知り得た知識や人間関係等をその後自らの営業活動のために利用することも,それが旧使用者の財産権の目的であるような場合又は法令の定め若しくは当事者間の格別の合意があるような場合を除いては,原則として自由なのであって,退任ないし退職した者が,旧使用者に雇用されていた地位を利用して,その保有していた顧客,業務ノウハウ等を違法又は不当な方法で奪取したものと評価すべきようなときでない限り,退任ないし退職した者が旧使用者と競業的な事業を開始し営業したとしても,直ちにそれが不法行為を構成することにはならない」としています。一方,東京地裁平成6年11月25日判決は,元従業員等の競業行為が,雇傭者の保有する営業秘密について不正競争防止法で規定している不正取得行為,不正開示行為等(同法二条一項四号ないし九号参照)に該当する場合はもとより,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇傭者の顧客等を奪取したとみれるような場合,あるいは,雇傭者に損害を加える目的で一斉に退職し会社の組織的活動等が機能しえなくなるようにした場合等も,不法行為を構成することがある」としています。
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有期労働契約と無期労働契約における労働者の辞職の要件の違い
① 有期労働契約の場合
労働者も期間の定めに拘束されることから、有期労働契約を締結している労働者が辞職しようとする場合には「やむを得ない事由」が必要となります(民法628条)。ただ、1年を超える期間の定めのある有期労働契約を締結している労働者は、その労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては自由に辞職することができる(労基附則137条)とされています。
② 無期労働契約の場合
この場合には、2週間前に予告すればいつでも労働者は辞職することができる(民法627条1項)とされています。
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期間の定めのある労働契約における期間途中の解雇
使用者は,期間の定めのある労働契約において,やむを得ない事由がある場合でなければ労働者を解雇することができない(民法628条,労働契約法17条1項)とされていることから,やむを得ない事由が認められて期間途中の解雇ができるかどうかが問題となることがあります。
この期間途中の解雇に関する裁判例を見ると,福岡高裁平成14年9月18日決定は,期間の定めのある労働契約は,民法628条によりやむを得ない事由があるときに限り期間内解除ができるにとどまり,就業規則の解雇事由の解釈に当たっても雇用期間の中途でなされなければならないほどのやむを得ない事由の発生が必要であるとしています。また,宇都宮地裁栃木支部平成21年4月28日決定は,本条1項の「やむを得ない事由」は期間の定めのない労働契約の解雇の有効要件である「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合」よりも厳格なものであるとしています。
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使用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効
使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働をすることができるよう必要な配慮をするとされている(労働契約法5条)ところ、この安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効という問題があります。
この損害賠償請求権の消滅時効に関する裁判例を見ると、時効期間について、最高裁昭和50年2月25日判決は、民法167条1項により10年と解されるとしています。
また、その起算点について、最高裁平成6年2月22日判決は、安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、最終の行政上の決定を受けた時から進行するとし、最高裁平成16年4月27日判決は、じん肺によって死亡した場合の損害については、死亡の時から進行するとしています。
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労働契約の内容の合意による変更
労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができます(労働契約法8条)。
この労働条件変更の合意に関し,大阪高裁平成3年12月25日判決は,使用者が一方的に賃金を減額したのに対して労働者が不満ながら異議を述べずにこれを受領してきたからといってこれをもって賃金の減額に労働者が黙示の承諾をしたとはいえないとしています。また,東京高裁平成20年3月25日判決は,期間の定めのない雇用契約から1年の有期契約への変更,賃金の減額,退職金制度の廃止,生理休暇・特別休暇の無給化等多岐にわたる労働条件の変更につき,数分の社長説明及び個別面談での口頭説明によってその全体及び詳細を理解し記憶に留めることは到底不可能であり,使用者による労働条件の変更合意の申込みの内容の特定が不十分であるから口頭による労働条件の変更の合意が成立したと認めることはできないとしています。
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労働者の退職後における競業避止義務
企業がそのノウハウの外部への流出を防止するために就業規則や個別の特約により労働者に対し退職後の競業避止義務を課すことがあるところ、どの範囲までこの義務を課すことができるかが問題となることがあります。
この労働者の退職後の競業避止義務に関し、東京地裁平成7年10月16日決定は、労働者の職務内容が使用者の営業秘密に直接かかわるために特別な当事者の信頼関係から合意がなくても当然に生じる場合と特別の合意によって初めて創設される場合とがあるが、前者の場合にはその禁止期間、禁止行為の範囲や場所を具体化した約定については禁止内容が不当なものでない限り原則として有効と解され、後者の場合には競業行為の禁止の内容が必要最小限度にとどまりかつ十分な代償措置が執られていなければならない。また、労働者に退職後の競業避止義務を負わせる特約に基づいて競業行為の差止請求をするに当たっては、当該競業行為によって使用者の営業上の利益が現に侵害されているか、又は侵害される具体的なおそれがあることを要するとしています。
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就業規則による労働契約の内容である労働条件の変更
労働契約法9条本文は,「使用者は,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と定めていますが,同法10条は,その変更が「合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」としています。
この就業規則による労働条件の変更について,最高裁昭和43年12月25日判決は,就業規則の作成又は変更によって,労働者の既得の権利を奪い,あるいは不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されないが,労働条件の統一的かつ画一的処理の要請から当該条項が合理的なものである限り個別の同意がなくても労働者に適用されるとして,55歳停年制を新たに定めた就業規則の改正は,諸般の事情から合理的なもので有効と解されるとしています。
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労働者の解雇期間中の賃金と中間利益の控除
権利の濫用になる解雇は無効とされる(労働契約法16条)ところ,解雇されたことにより就労しなかった期間の賃金の扱いが問題となります。
この解雇期間中の賃金について,最高裁昭和59年3月29日判決は,ユニオン・ショップ協定に基づく解雇が無効で,解雇期間中の労働者の労務提供の不履行が使用者の責に帰すべき事由による場合,労働者は反対給付としての賃金請求権を失わないとしています。
また,最高裁昭和62年4月2日判決は,使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の六割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許され,右利益の額が平均賃金額の四割を超える場合には更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金の全額を対象として利益額を控除することが許される。そして,賃金から控除し得る中間利益は,その利益の発生した期間が右賃金の支給の対象となる期間と時期的に対応するものであることを要し,ある期間を対象として支給される賃金からそれとは時期的に異なる期間内に得た利益を控除することは許されないとしています。
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労働条件を変更するための変更解約告知
使用者からの労働条件の変更の申込を労働者が承諾しないことを理由として行われる解雇を変更解約告知と言います。
この変更解約告知に関する裁判例を見ると、東京地裁平成7年4月13日決定は、雇用契約により特定された職種等の労働条件を変更するために新契約締結の申込みを伴う雇用契約の解約を行うことは、当該労働条件の変更が会社の業務運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて労働条件の変更を伴う新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足るやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときには有効であるとしています。また、大阪地裁平成10年8月31日判決は、変更解約告知といわれるものは、その実質は労働条件変更のために行われる解雇であるが、労働条件変更については就業規則の変更によってされるべきものであり、ドイツ法と異なって明文のない我が国においては変更解約告知という独立の類型を設けることは相当でない。本件解雇の意思表示はその実質は整理解雇にほかならないのであるから整理解雇と同様の厳格な要件が必要であるとしています。
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