Archive for the ‘雇用・労働’ Category
時間外・休日・深夜労働についての割増賃金の支払い
使用者は、時間外・休日・深夜労働について割増賃金を支払わなければならない(労働基準法37条1項4号)とされています。そして、この割増賃金は、時間外労働の場合は通常の労働時間又は労働日の賃金の25%以上、休日労働の場合は35%以上(同法同条1項2項)、深夜労働の場合は通常の労働時間の賃金の25%以上(同法同条4項)とされています。
この割増賃金の支払いと通常の労働時間の賃金に支払いについて、裁判例は、支払いが通常の労働時間の賃金と割増賃金部分との判別が不可能な場合には割増賃金が支払われたとはいえないとしています(最高裁平成6年6月13日判決、最高裁平成24年3月8日判決、最高裁平成29年7月7日判決等)。
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職場環境への配慮等についての親会社の責任
使用者は、労働者の職場環境に配慮する義務を負うとされますが、グループ企業においては、子会社の職場環境についてコンプライアンスを統括する親会社の責任が問題とされることがあります。
この親会社の責任が問題となった裁判例を見ると、親会社が自社及び子会社等のグループ会社における法令遵守体制を整備し法令等の遵守に関する相談窓口を設け相談への対応を行っていたという事案に関し、最高裁平成30年2月15日判決は、親会社が子会社の従業員による相談の申出に求められた対応をしなかったことをもって信義則上の義務違反とはいえないとしています。
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労働契約の内容となる就業規則の合理性
労働者と使用者との間の労働契約について労働契約法7条は、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によるものと規定しています。
この就業規則の効力について、最高裁昭和61年3月13日判決は、就業規則が労働者に対し一定の事項につき使用者の業務命令に服すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものである限りにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができるとしています。また、会社の都合による特別な場合のほかは満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後雇用契約を更新しないと定める就業規則の合理性について、最高裁平成30年9月14日判決は、期間雇用社員について労働契約法にいう合理的な労働条件を定めるものであるとしています。
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使用者の安全配慮義務と労働者のメンタルヘルス
使用者は、労働者に対しその安全に配慮する義務を負うとされるところ、労働者のメンタルヘルスに関してもこの安全配慮義務違反が問題となります。
この問題に関する裁判例を見ると、過重な業務によってうつ病が発症し増悪した場合に関し、最高裁平成26年3月24日判決は、使用者の安全配慮義務違反等に基づく損害賠償の額を定めるに当たり、当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺をすることはできないとしています。
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労働者の経歴詐称
企業が労働者として採用するかどうかを判断するため、対象者に対しその最終学歴、職歴、犯罪歴などの申告を求めることがあるところ、対象者によるこれらの経歴の詐称が問題となることがあります。
この経歴詐称に関し、東京地裁昭和54年3月8日判決は、労働者の学歴あるいは職歴は労働者の提供する労働力自体の内容、性質、能力等を評価するための重要な要素であるから、労働契約の締結に際し使用者から申告を求められた場合、労働者はこれについて正確に申告すべき信義則上の義務を負うとしています。
なお、大学を除籍中退していた者が履歴書に高卒と記載した事案について、最高裁平成3年9月19日判決は、このような場合も経歴詐称となりうるという前提を取って判断をしています。
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会社分割における労働契約の承継
会社分割においては、その事業に「主として従事する労働者」であって分割契約または分割計画に氏名が記載された者であるか、一定期間内に異議を申し出たかどうか等により労働契約の承継の有無が決まるとされています(労働契約承継法2条1項1号、3条、4条1項4項、5条1項3項)。
この労働契約の承継の効力について、最高裁平成22年7月12日判決は、労働契約の承継のいかんが労働者の地位に重大な変更をもたらし得るものであることから、分割会社が分割計画書を作成するに先立ち、承継される営業に従事する個々の労働者との間で協議を行わせ当該労働者の希望等をも踏まえつつ分割会社に承継の判断をさせることによって、労働者の保護を図ろうとする5条協議の趣旨からすると、承継法3条に基づき労働契約が承継対象となった特定の労働者との関係において5条協議が全く行われなかった場合及び5条協議が行われた場合であっても、その際の分割会社からの説明や協議の内容が著しく不十分で法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合、当該労働者は承継法3条の定める労働契約承継の効力を争うことができるとしています。
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予告なしの解雇の効力
使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をし、30日前に予告をしない使用者は、労働者に対し、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない(労働基準法20条1項)とされています。
このように使用者が労働者を解雇しようとする場合に予告期間を置くことや予告手当の支払を要求されているにもかかわらず、本条所定の予告期間を置かず、また、予告手当の支払いをしないで使用者が労働者に対し解雇の通知をした場合について、最高裁昭和35年3月11日判決は、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後本条所定の30日の期間を経過するか又は通知後に本条所定の予告手当の支払いをしたときのいずれかのときから通常解雇の効力が生ずるとしています。
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営業譲渡と労働契約の承継
労働契約は使用者と労働者との間で締結されるところ、営業が譲渡された場合に労働契約が承継されるかどうかが問題となることがあります。
この問題に関する判例例を見ると、東京高裁平成17年5月31日判決が、営業譲渡に伴い譲渡人がその従業員と締結していた労働契約が当然に譲受人に承継されるものではないから、労働契約が営業譲渡に伴い譲渡人から譲受人に承継されるか否かは譲受人と譲渡人との間でその旨の特別の合意が成立しているか否かによるとし、譲渡人と譲受人の間の合意のうち①賃金等の労働条件を相当程度引き下げる改訂に異議のある従業員については個別に排除する②この目的を達成するために従業員全員に退職届を提出させて譲受人が再雇用するという形式を採り、退職届を提出しない従業員は譲渡人の解散を理由に解雇する旨の合意部分は民法90条に反するものとして無効となるとしています(最高裁平成18年5月16日決定は、この判断をを支持しています)。
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定年後の再雇用
労働契約の成立する場合として新規採用の他に再雇用の場合があります。
この再雇用が問題となった裁判例を見ると、労働契約の成立時期に関し最高裁昭和51年3月8日判決は、定年年齢到達後も「業務の都合によって会社が特に必要と認めた場合は嘱託として再雇用することがある」との就業規則の規定の下に定年退職後も特段の欠格事由のない限り当該労働者を直ちに嘱託として再雇用するとの労働慣行が確立している場合、営業成績や健康状態で特段の欠格事由のない労働者については定年退職した日の翌日に再雇用契約が成立したものといえるとしています。
なお、65歳までの雇用確保措置を定める高年法9条に関し、大阪高裁平成21年11月27日判決は、同法の改正経緯を踏まえると、事業主が転籍型の継続雇用制度を採用する場合、事業主と転籍先との間に同一企業グループの関係が存在するとともに転籍後も高年齢者の雇用が確保されるような関係性が認められなければならないと解するのが相当である。これらの関係性が認められる本件制度は同条1項2号で定める継続雇用制度に適合するものであり、事業主に同号違反を理由とした債務不履行や不法行為は成立しないとしています。
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労働者に対する降格・減給
賃金は労働者の生活の糧として労働者に大きな影響を及ぼします。そのため、賃金にかかわる降格・減給が争いになることがあります。
この降格・減給に関する裁判例を見ると、東京地裁平成12年1月31判決は、備っていると判断された職務遂行能力が営業成績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格させることを予定していない一般的な職能資格制度の下では、労働者の自由意思に基づいてなされた同意等の法的根拠なく、使用者が降格や職能給の減額措置を行うことはできないとしています。
また、東京地裁平成16年3月31日判決は、労働契約の内容として成果主義による基本給の降給が定められている場合であっても降給が許容されるためには、さらに降給が決定される過程に合理性があること、その過程が従業員に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続が存することが必要である。降給の仕組み自体に合理性と公正さが認められその仕組みに沿った降給の措置が採られた場合には、個々の従業員の評価の過程に特に不合理ないし不公正な事情が認められない限り、当該降給の措置は当該仕組みに沿って行われたものとして許容されるとしています。
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