Archive for the ‘刑事事件’ Category
保釈における条件の追加・変更
保釈を許可する場合には,被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる(刑事訴訟法93条3項)とされているところ,その追加・変更が問題となることがあります。
この保釈の条件の追加・変更に関する裁判例を見ると,東京高裁昭和53年10月17日決定は,保釈を許可された被告人は制限住居の変更を請求する権利はなく,制限住居の変更を許さない措置に対し抗告をすることはできないとしています。また,東京高裁昭和54年5月2日決定は,保釈後に事情変更があって従前の任意的保釈条件ではこれに対処できない場合には,必要かつ相当とされるときに限りその追加,変更をすることができる。「証拠隠滅と思われるような行為をしてはならない」等の条件の下に保釈された被告人が被害者の証人尋問を控えてその店舗の営業を妨害する行為に出た等の事情が生じた場合,「右店舗の営業を妨害してはならない」旨の条件を追加することは刑訴法96条1項4号所定の行為を防止するのに必要かつ相当な措置として適法であるとしています。
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保釈が取り消された場合における保釈保証金の没取
被告人は,保証金が納付されてはじめて釈放されることになりますが(刑事訴訟法94条1項),保釈が取り消されるとこの保証金が没取(実務では「ぼっとり」と読まれることがあります。)される(同法96条2項等)ことになります。
この保証金の没取について,最高裁昭和50年3月28日決定は,刑訴法343条の規定による保釈失効後,新たに保釈の決定があり,刑訴規則91条2項により前に納付された保証金が新たな保証金の一部として納付されたものとみなされる場合であっても残額が納付されないままに本条3項に定める事由が生じたときは,前の保釈の保証金としてその全部又は一部を没取しなければならないとしています。
また,最高裁平成21年12月9日決定は,本条3項は,保釈保証金没取の制裁の予約の下,これによって逃亡等を防止するとともに保釈された者が逃亡等をした場合には前記制裁を科することにより刑の確実な執行を担保する趣旨のものである。このような制度の趣旨にかんがみると,保釈された者について同項所定の事由が認められる場合には,刑事施設に収容され刑の執行が開始された後であっても保釈保証金を没取することができるとしています。
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保釈が許可される場合における「適当と認める条件」
被告人に対する勾留の執行を停止してその身柄拘束を解く裁判とその執行を保釈と言います。そして,この保釈を許すときには,納付すべき保証金額を定め(刑事訴訟法93条1項),また,被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる(同法同条3項)とされています。
この保釈が許可される場合における「適当と認める条件」に関する裁判例を見ると,大阪高裁昭和63年9月9日決定は,「被告人は,弁護人を介さずして事件関係者に対し面接,電話,文書その他いかなる方法によるとを問わず一切接触しないこと」との条件を付すことは,本件事案の内容,公判審理の経過等にかんがみ適法であるとしています。
一方,福岡高裁昭和30年10月21日決定は,「適当と認める条件」とは,被告人の逃亡,罪証隠滅等を防止するとともに保釈後の被告人の公判出廷又は有罪判決確定後の刑の執行を確保するための条件を指称するとした上で,「保釈期間中他の犯罪を犯さぬよう謹慎していなければならない」との条件を付すことは違法であるとし,また,高松高裁昭和39年10月28日決定は,「本件公訴事実と同種犯行を行ったときは保釈を取り消すこと」との条件を付すことは違法であるとしています。
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誹謗中傷対策としての侮辱罪の法定刑の引き上げ
令和4年6月13日,侮辱罪の法定刑を「1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」(刑法230条)とする「刑法等の一部を改正する法律」が成立しました。
法務省のホームページは,この法定刑の引上げの必要性について,「インターネット上の誹謗中傷が特に社会問題となっていることを契機として,誹謗中傷全般に対する非難が高まるとともに,こうした誹謗中傷を抑止すべきとの国民の意識が高まっている 近時の誹謗中傷の実態への対処として,侮辱罪の法定刑を引き上げ,厳正に対処すべきとの法的評価を示し,これを抑止するとともに,悪質な侮辱行為に対して厳正に対処することが必要」としています。
この規定は,同年7月7日から施行されます。
参照(外部リンク)
内閣府大臣官房政府広報室「政府広報オンライン」サイト 令和4年(2022年)4月8日 SNSの誹謗中傷 あなたが奪うもの、失うもの#NoHeartNoSNS(ハートがなけりゃSNSじゃない!)
ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上での誹謗中傷等について紹介しています。
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懲役と禁錮を一元化する拘禁刑の創設
令和4年6月13日に改正刑法が成立しました。この改正法では,刑務作業を義務づけている懲役刑とこれを義務化していない禁錮刑を廃止して両刑を一元化する「拘禁刑」を創設し,「改善更生を図るため,必要な作業を行わせ,必要な指導を行うことができる」と規定しています。
令和4年6月14日付読売新聞はこの刑法の改正につき,「拘禁刑 懲役と禁錮一元化」というタイトルでその「導入の背景には再犯状況の悪化と受刑者の高齢化がある。導入後は薬物依存や性犯罪などの矯正プログラムに時間を割いたり,出所後を見据え,高齢者に体力などを向上させるリハビリを重点的に施したりできる。適用対象は施行後の犯罪で,施行前に懲役・禁錮の判決が確定した受刑者などには両刑が執行される」と報じています。
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業務行為の違法性
刑法35条は、法令による行為とともに「正当な業務による行為は、罰しない」と規定しています。
この業務行為の違法性が問題となった裁判例を見ると、宗教活動について、神戸簡裁昭和50年2月20日判決は、教会の牧師が刑罰法令に触れる行為をしながら救済を求めてきた少年に対し、自己省察をさせるため監督と指導に適当な教会に1週間程度隔離した行為は、手段方法においても正当であり、全体としての法秩序の理念にも反せず正当な業務行為として違法性を阻却されるとしています。
また、弁護活動について、最高裁昭和51年3月23日判決は、弁護人が被告人の利益を擁護するためにした行為が本条の適用を受けるためにはそれが弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮してそれが法秩序全体の見地から許容されるべきものと認められなければならず、その判断に際しては法令上の根拠を持つ職務活動が弁護目的達成との間に関連性があるか、被告人自身が行った場合に違法阻却が認められるかという諸点を考慮に入れるのが相当であるとしています。
また、取材活動について、最高裁昭和53年5月31日決定は、報道機関が取材の目的で公務員に秘密漏示を唆しただけで違法性が推定されるものではなく、真に報道の目的から出たものでその手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものであれば正当な業務行為として違法性を欠くが、取材の手段・方法が刑罰法令に触れなくとも取材対象者の人格の尊厳を著しく蹂躙するような態様のものである場合には正当な取材活動の範囲を逸脱し違法なものであるとしています。
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自首による刑の減軽
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に、自発的に自己の犯罪事実を申告し、その処分を求める意思表示を自首と言います。そして、自首が成立する場合、その刑は、任意的に減軽されます(刑法42条1項)。
この自首の成否に関する裁判例を見ると、東京高裁平成7年12月4日判決は、人を殺した者が犯行直後に自首を決意しそのまま派出所に赴いたが警察官が不在であったため、さらに110番通報して自己の氏名・犯罪事実を申告した場合には、派出所出頭8分後、電話通報2分前にその妻が通報していたため既に捜査機関に被告人の犯罪事実が発覚していたとしても、自首したものといえるとし、最高裁平成13年2月9日決定は、拳銃所持・発射罪について、捜査機関に発覚する前に申告したときは、使用した拳銃について虚偽の事実を述べたとしても自首が成立するとしています。
一方、東京高裁平成17年3年31日判決は、強盗の目的で被害者に暴行を加えて死亡させた者が暴行の動機・態様について隠して単なる傷害として警察に申告する行為は自首に当たらないとし、東京高裁平成17年6月22日判決は、自首そのものが犯人隠避行為に該当する場合は実質的にみて自己の犯罪事実の申告があったとは認められず、傷害致死の共同正犯者が他の共犯者の存在を隠ぺいするため単独犯行として警察に申告する行為は自首に当たらないとしています。
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心身喪失者・心身耗弱者の行為
刑法は、「心身喪失者の行為は、罰しない」(同法39条1項)、「心身耗弱者の行為は、その刑を減軽する」(同法39条2項)と定めています。
この心身喪失・耗弱に関する裁判例を見ると、大審院昭和6年12月3日判決が、心神喪失について、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力又はその弁識に従って行動する能力のない状態をいうとし、心神耗弱について、精神の障害がまだこのような能力を欠如する程度には達していないが、その能力が著しく減退した状態をいうとし、最高裁昭和58年9月13日決定は、本条にいう心身喪失又は心身耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所にゆだねられるべき問題であることはもとより、その前提となる生物学的、心理学的要素についても、右法律判断との関係で究極的には裁判所の評価にゆだねられるべき問題であるとしています。
また、最高裁平成20年4月25日判決は、責任能力判断の前提となる生物学的要素並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度についてはその診断は臨床精神医学の本分であることから、専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきであるとしています。
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罰金・科料を完納できない者に対する労役場留置
罰金・科料を完納することができない者は、労役場に留置されます(労役場留置、刑法18条)。
留置される期間は、罰金の場合は1日以上2年以下、科料の場合は1日以上30日以下で、罰金を併科した場合または罰金と科料とを併科した場合は3年、科料を併科した場合は60日を超えることができないとされています。そして、この範囲内で裁判官が留置の期間を定め、罰金・科料の言渡とともにこれを言い渡すとされています。また、罰金・科料の言渡を受けた者がその一部を納めたときは、その残額を留置1日の割合に相当する金額で除して得た日数を留置するとされています。
この留置1日に相応する金銭の換算率について、最高裁昭和24年10月5日判決は、必ずしも自由な社会における勤労の報酬額と同率に決定されるべきものではないとしています。
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未決勾留日数の本刑への任意通算(裁定算入)
裁判所は、勾留状による拘禁である未決勾留の日数の全部または一部を本刑に算入することができる(刑法21条、任意通算)とされています。
この任意通算の可否に関する裁判例を見ると、最高裁昭和30年12月26日判決は、同一被告人に対する数個の公訴事実を併合審理する場合に無罪となった公訴事実につき発せられた勾留状による未決勾留日数を他の有罪とした公訴事実の本刑に算入できるとし、最高裁昭和55年12月23日判決は、起訴されなかった住居侵入の事実についての未決勾留日数は、右と一罪の関係にある起訴された常習累犯窃盗の罪の本刑に算入できるとしています。
一方、最高裁昭和32年12月25日判決は、未決勾留中の被告人が他事件の確定判決により懲役刑の執行を受けるに至ったときは、懲役刑の執行と競合する未決勾留日数を本刑に算入できないとし、最高裁昭和40年7月9日判決は、他事件につき本刑である自由刑に算入された未決勾留と重複する未決勾留を、更に本件の本刑に裁定算入又は法定通算することはできないとし、最高裁昭和50年7月4日判決は、起訴されていない被疑事実についての未決勾留は、起訴事件の捜査に利用されたとしても起訴事件の本刑に算入できないとしています。
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