Archive for the ‘相続’ Category

相続の放棄の熟慮期間の起算点とその期間の伸長

2021-03-08

 民法915条1項は、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続について単純もしくは限定の承認または放棄をしなければならないが、この期間は利害関係人、検察官の請求によって家庭裁判所において伸長することができるとしています。

 この3か月という熟慮期間の起算点に関し、最高裁昭和59年4月27日判決は、被相続人に相続財産が全く存在しないと信ずるにつき相当な理由がある場合には、相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識し得るべき時から起算するとしています。

 また、同法916条は、再転相続の場合につき、相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、熟慮期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算するとし、最高裁昭和63年6月21日判決は、甲の相続人につきその相続人乙が承認放棄をしないで死亡し、乙の相続人丙が乙の相続につき放棄をしていない場合に関し、甲の相続について放棄をすることができ、また、その後に丙が乙の相続を放棄しても、丙が先に甲の相続についてした放棄の効力がさかのぼって無効になることはないとしています。

 なお、相続人が未成年者、成年被後見人であるときの熟慮期間は、その法定代理人が本人のために相続の開始があったことを知った時から起算する(同法917条)とされています。

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限定承認の申述

2021-03-01

 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることができ(限定承認、民法922条)、相続人が数人あるときは、共同相続人の全員が共同してのみ限定承認をすることができる(同法923条)とされています。また、限定承認をしようとするときは、同法915条1項の期間内に相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨の申述をしなければならない(同法924条)とされています。

 この限定承認が問題となった裁判例を見ると、被相続人が設定した抵当権が限定承認の当時に未登記であった事案に関し、大審院昭和14年12月21日判決は、抵当権者は、相続人に対し、その設定登記を請求する利益を有せず、登記を請求できないとしています。

 また、不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人であって限定承認がなされた事案に関し、最高裁平成10年2月13日判決は、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記より先になされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は、相続債権者に対し、不動産の所有権取得を対抗することができないとしています。

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遺産分割の効力

2021-02-01

 遺産の分割は、相続の開始した時に遡ってその効力を生ずる(遡及効、民法909条本文)とされています。また、この遺産分割の遡及効は、第三者の権利を害することができない(同条但書)とされています。そして、遺産の相続によって不動産に関する権利を取得した相続人は、登記を経なければ遺産の分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、法定相続分を超える権利の取得を対抗できない(最高裁昭和46年1月25日判決)とされています。

 なお、登記実務では、遺産分割の合意があったときは、被相続人の登記名義のままで、直ちに各人名義の相続登記をすることができる(昭和19年10月19日民事甲692号回答)とされています。

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遺言執行者の解任請求

2021-01-25

 遺言者は、遺言で遺言執行者を指定し、または、その指定を第三者に委託することができる(民法1006条1項)とされています。また、遺言執行者が指定されていないときまたはなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって遺言執行者を選任する(同法1010条)と規定されています。

 そして、この遺言執行者は、その任務を怠ったときその他正当の事由があるときは、利害関係人は、その遺言執行者の解任を家庭裁判所に請求することができる(同法1019条1項)とされています。

 そこで、この解任の事由が問題となった裁判例を見ると、遺言内容の実現に関する事務について適正な処理を怠ったこと(名古屋高裁昭和32年6月1日決定、福岡家裁大牟田支部昭和45年6月17日審判)、相続人の一部との意見の対立のため不公正等の感情をいだかせたこと(東京高裁昭和44年3月3日決定)は解任の事由となりうるとされていますが、相続人の協力を得られないことなどから円滑な職務執行が妨げられた場合に解任の事由を否定(広島高裁松江支部平成3年4月9日決定等)しています。

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特別縁故者に対する相続財産の分与

2021-01-12

 相続人としての権利を主張する者がいない場合に被相続人と生計を同じくしていた者やその療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者に対し相続財産を与える制度(民法958条の3)があります。

 裁判例を見ると、特別縁故者である「被相続人と生計を同じくしていた者」について、事実上の養子(大阪家裁昭和40年3月11日審判)や継親子(京都家裁昭和38年12月7日審判)がこれにあたるとしたものがあります。

 また、「被相続人の療養看護に努めた者」について、従業員(大阪高裁平成4年3月19日決定)や妻の弟(広島高裁平成15年3月28日決定)がこれにあたるとしたものがあります。

 さらに、「その他特別の縁故があった者」について、特に財産上の援助をした者(大阪家裁昭和39年9月30日審判)や財産管理や身上監護をした者(名古屋家裁昭和48年2月24日審判、大阪高裁平成5年3月15日決定)がこれにあたるとしたものがあります。

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内縁関係の当事者が死亡した場合における財産分与

2020-12-14

 夫婦が離婚する場合、財産分与(民法768条)が問題となるところ、内縁関係の当事者の一方が死亡した場合にも上記規定が適用されるのかという問題があります。

 この問題に関する裁判例を見ると、その一方が死亡したことによって内縁関係が消滅した場合に関し、最高裁平成12年3月10日判決が、「離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、純婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。

 また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地はない」として、民法768条の類推適用を否定しています。

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遺留分の減殺請求

2020-11-02

 遺留分の減殺請求権は、遺留分権利者が相続の開始および減殺すべき贈与・遺贈のあったことを知ったときから1年で消滅し、10年の除斥期間にかかる(民法1042条)とされていますが、遺留分の減殺請求は裁判外で行うことも可能とされています(最高裁昭和41年7月14日判決)。そして、遺贈、死因贈与、生前贈与という順序で減殺されます(同法1033条)。

 なお、被相続人の全財産が遺贈されたのに対し遺留分権利者が遺贈の効力を争わないで遺産分割を申入れた場合に関し、最高裁平成10年6月11日判決は、特段の事情がない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれているとしています。

 減殺請求を受けた受遺者・受贈者は、現物返還に代えて価額弁償をすることができる(同法1041条)とされ、最高裁平成12年7月11日判決は、価額賠償は、目的財産の各個につき許されるとしています。

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遺留分の侵害とその額の算定

2020-10-26

 被相続人による贈与や遺贈によって奪われることのない相続人に留保される相続財産についての一定の割合を遺留分と言います。

 兄弟姉妹以外の相続人は、
 ① 直系尊属だけが相続人となる場合は3分の1、
 ② それ以外の場合は2分の1が遺留分とされています(民法1028条)。

 この遺留分は、相続の開始した時に被相続人が有していた財産の価額に贈与した財産の価額を加えた額から債務の額を控除した額に基づいて算定されます(同法1029条1項)。

 ここで算入される贈与は、相続が開始する前1年間にされたものですが、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは1年前に行われたものも算入されます(同法1030条)。

 そして、遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で遺贈及び贈与の減殺を請求することができます(同法1031条)。

 遺留分権利者及びその承継人の取得する額が遺留分の額に達しないときにその不足額が侵害額となります。この遺留分の侵害額の算定に関する裁判例を見ると、相続人のうちの一人に対し財産の全部を相続させる旨の遺言がなされた場合に関し、最高裁平成21年3月24日判決は、特段の事情のない限り、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないとしています。

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遺言が無効となる場合

2020-10-19

 財産処分の方法として遺言が認められていますが、その効力が否定され無効となる場合があります。

 まず、遺言能力のない者による遺言は無効とされます。民法は15歳を遺言のできる年齢としており(民法961条)、15歳以上で意思能力があれば未成年者や被保佐人でも単独で遺言をすることを認めていますが、成年被後見人については意思能力を回復していることに加えて医師2名以上の立会いが必要としています(同法973条)。意思能力が問題となった裁判例を見ると、事理弁識能力を欠くとして遺言を無効とした事例(東京高裁平成12年3月16日判決等)がありますが、統合失調症であっても無効としなかった事例(最高裁平成10年3月13日判決)があります。

 また、内容が不特定・不明確な遺言は無効とされます。裁判例を見ると、全財産を「公共に寄付する」という遺言に関し、最高裁平成5年1月19日判決は、受遺者の特定を遺言執行者にゆだねたものとして有効としています。一方、遺産の全部をある者に任せるという遺言に関し、東京高裁昭和61年6月18日判決は、遺言者とその者との関係その他の状況から遺贈と解するのが困難であるとして無効としています。

 さらに、二人以上の者が同一の証書で行う共同遺言は無効(同法975条)とされます。裁判例を見ると、二人の遺言の一方に氏名を自書しないという方式違背がある場合に関し、最高裁昭和56年9月11日判決は、全体が無効としていますが、別人の遺言書が合綴されている場合に関し、最高裁平成5年10月19日判決は、それが各別の用紙に記載され、容易に切り離すことができるものであれば有効としています。

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共有物分割請求訴訟と遺産分割審判の関係

2019-09-24

共同相続人が遺産を分割する場合、遺産分割の手続(民法907条)によることになりますが、第三者が共同相続人か共有持分権を譲り受けた場合にどのような手続きによって共同所有関係を解消するかという問題があります。

 そこで、この問題に関する裁判例を見ると、最高裁昭和50年11月7日判決が、「第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続きは、民法907条に基づく遺産分割審判ではなく、民法258条に基づく共有物分割訴訟である」としつつ「右分割判決によって共同相続人に分与された部分は、なお共同相続人間の遺産分割の対象となる」と判示しています。



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