Archive for the ‘個人法務’ Category
自由心証と証拠契約の適法性
裁判所は、自由な心証により事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する(自由心証主義、民事訴訟法247条)とされているところ、証拠方法を一定のものに限定する証拠制限契約など事実の確定方法に関する当事者の合意である証拠契約の適法性が問題となります。
この問題に関する裁判例を見ると、東京地裁昭和42年3月28日判決は、係争事実の確定方法につき特定の証拠方法の提出のみを認める証拠契約は、弁論主義が適用され当事者の自由処分が許される事項に限り、裁判所の自由心証主義に抵触しない範囲で適法であるとし、建物の増改築に必要な賃貸人の承諾は書面によることを要するとする合意を有効としています。
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ひらま総合法律事務所 弁護士 平間民郎(Tel:03-5447-2011)
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証明が困難な場合における損害額の認定
民事訴訟法248条は、損害賠償請求事件で賠償責任の認められる場合において「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき」に裁判所は、「弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる」と規定しています。
この規定に関し、最高裁平成20年6月10日判決は、不法行為に基づく損害賠償を求める事案について、原告に損害が発生したことを前提とするのであれば、損害額の立証が極めて困難であったとしても本条により相当な損害額が認定されなければならないとしています。
そして、入札における談合による損害額に関し、東京高裁平成21年5月28日判決は、損害額は、談合されていなければ形成されていたであろう落札価格に基づく契約金額と現に締結された請負金額に係る契約金額との差額であるが、これを具体的に立証することはその損害の性質上極めて困難であるから、本条により相当な損害額を認定すべきであるとしています。
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自由心証主義と弁論の全趣旨
裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を斟酌して自由な心証により事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断すると規定されています(自由心証主義、民事訴訟法247条)。
この弁論の全趣旨に関する裁判例を見ると、大審院昭和3年10月20日判決は、弁論の全趣旨とは、当事者の主張の内容・態度、訴訟の情勢から当然なすべき主張・証拠の申出を怠ったこと、始めに争わなかった事実を後になって争ったこと、裁判所・相手方の問いに釈明を避けたこと等、口頭弁論における一切の積極・消極の事柄を指すとしています。
そして、最高裁昭和27年10月21日判決は、上告人が不知と答えた第三者作成文書については、特段の立証がなくても弁論の全趣旨からその成立の真正を肯定し得るとし、最高裁昭和36年4月7日判決は、判決が証拠調べの結果と弁論の全趣旨を総合して事実を認定している場合、弁論の全趣旨が具体的に判示されていなくても記録の照合によりおのずから明らかであれば理由不備の違法はないとしています。
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取引行為に関する使用者責任における「事業の執行について」
ある事業のために他人を使用する者(使用者)または使用者に代わって他人を監督する者(代理監督者)は、その他人(被用者)が「その事業の執行について」第三者に加えた損害を賠償する責任を負う(使用者責任、民法715条)とされているところ、その他人(被用者)の行為が「その事業の執行について」に当たるかどうかが問題となります。
この他人(被用者)の行為が「事業の執行について」に当たるかどうかが取引行為に関して問題となった裁判例を見ると、銀行の支店長が不良貸付金の回収のために支店長名義で靴下を購入しこれを処分した場合(最高裁昭和32年3月5日判決)、かつて手形作成準備業務を担当していた者が会計係員として割引手形を銀行に使送などする職務に配転した後に手形を偽造した場合(最高裁昭和40年11月30日判決)に事業の執行に当たるとしています。
一方、会社において通勤等に自家用車を利用することが禁止され、出張の際も許可が必要とされており、又、本件出張についても特急列車を利用すれば十分間に合ったのに会社の業務に関して平素自家用車を用いたこのない者が会社に届け出ることなく自家用車を用いて出張した場合(最高裁昭和52年9月22日判決)、郵便局に所属する保険外務員が詐欺により簡易保険の契約者を誤信させ、契約者貸付けの方法を教示するなどして郵便局から金員を借り入れさせた上、その金員の融資を受けた場合(最高裁平成15年3月25日)に事業の執行に当たらないとしています。
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参加承継・引受承継
訴訟の係属中に一方当事者と第三者との間で権利や義務が移転した場合にその承継人が訴訟に加わる制度として参加承継・引受承継(民事訴訟法49条、50条等)があります。
この制度に関する裁判例を見ると、土地賃貸借の終了を理由とする建物収去土地明渡請求訴訟の係属中に第三者が当該建物を賃借した場合に関し、最高裁昭和41年3月22日判決は、建物収去義務の一部といえる退去義務に関する紛争が第三者との間に移行し、かつ、従前の訴訟資料を利用して実効的解決を図り得るから当該第三者は承継人といえるとしています。
また、その申立権者に関し、東京高裁昭和54年9月28日決定は、係争物の譲受人は自ら進んで訴訟参加し得るのであり、譲渡人には譲受人に訴訟を承継させるべく引受申立てをする利益はないとして申立権者にあたらないとしています。
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間接事実・補助事実の自白
民事訴訟法179条は、「裁判所において当事者が自白した事実」「は証明することを要しない」と規定していますが、ここでの事実は、法的効果の判断に直接必要な主要事実とされ、この主要事実の存否を推認させる事実である間接事実や証拠の信用性に関する事実である補助事実などの自白の取り扱いが問題となります。
そこで、この問題に関する裁判例を見ると、最高裁昭和41年9月22日判決は、間接事実の自白は、裁判所及び自白した当事者のいずれをも拘束しないとしています。また、最高裁昭和52年4月15日判決は、補助事実である書証の成立の真正についての自白は、裁判所を拘束せず、その撤回は許されるとしています。
裁判上の自白の無効・取消・撤回
裁判所において当事者が自白した事実は証明することを要しない(民事訴訟法179条)とされ、裁判上の自白は、自白された事実についての裁判所の認定権を排除し、自白をした当事者は、自白の内容に矛盾する
この自白の無効等が問題になった裁判例を見ると、大審院大正11年2月20日判決は、裁判上の自白は原則として取り消すことはできないが、自白した事実が真正の事実に適合せず、かつ、自白が錯誤によることを自白者が証明した場合に限りその取消が許されるとし、また、最高裁昭和33年3月7日判決は、刑法246条2項に当たる詐欺行為により自白がなされた以上、自白は無効であるか又は取り消されるべきである旨の自白者の主張は「刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至った」再審事由を主張するものであり、主張事実が肯認されるならば自白の効力は認められないとしています。
また、東京高裁平成元年10月31日判決は、自白が真実に反するが錯誤によらない場合であっても、自白に対する相手方の信頼をあくまで保護するのを正当とする事由に乏しいときは自白の撤回が許されるとしています。
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当事者尋問における当事者の不出頭等と虚偽の陳述に対する過料
民事裁判において、当事者本人に尋問をする手続を当事者(本人)尋問と言い、民事訴訟法207条1項は、裁判所は、申立て又は職権で当事者本人を尋問することができるとしています。そして、同法208条は、その当事者が正当な理由なく出頭や宣誓・陳述を拒否したときに、裁判所は尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができるとし、同法209条1項は、宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは過料の制裁をうけるとしています。
この当事者尋問に関する裁判例を見ると、当事者の不出頭に関し、東京地裁平成14年10月15日判決が、尋問の必要性を判断するのは裁判所であり、不当な質問は裁判長の訴訟指揮によって制限できるのだから、原告の不出頭に正当な理由はなく尋問事項に関する被告の主張を真実と認めることができるとしています。また、過料の裁判を求める申立権に関し、最高裁平成17年11月18日決定は、過料の裁判は裁判所が職権によって行うものであり、訴訟当事者はその裁判を求める申立権を有しないとしています。
証人義務と証言拒絶権
裁判所は、特別の定めがある場合を除き、何人でも証人として尋問できる(民事訴訟法190条)とされ、証人は、供述義務を負いますが、一定の事項に関して証言拒絶権を認められています(同法196条、197条等)。
そこで、この証言拒絶権に基づく証言拒否が問題になった裁判例を見ると、東京高裁平成4年6月19日決定は、公証人法上の守秘義務は、嘱託人の公証制度に対する信頼保護を目的とするが、公正証書遺言作成当時における遺言者の意思能力の有無が争点になっていて証書を作成した公証人の証言に代替し得る適切な証拠方法がない場合には、当該争点の判断に必要な限度で遺言者の秘密が開示されることもやむを得ないとしています。
また、東京地裁平成18年5月22日決定は、たとえ取材源として想定される者が刑罰法規で担保された守秘義務規定に違反している疑いがあっても、公益通報者保護法の趣旨からして情報を開示した者を保護するとともに国その他の公的機関や公務員による当該違法行為等を一般に開示して責任追及を可能とし再発を防止する必要があることから、取材記者は証言を拒否することができるとし、最高裁平成18年10月3日決定は、事実報道の自由は憲法二一条により保障され、報道のための取材の自由を確保する取材源の秘密は重要な社会的価値を有するから、取材源に係る証言は保護に値する秘密として原則として拒絶できるとしています。
裁判において証明の必要がない顕著な事実
裁判において判決の基礎になる事実については証明が必要となりますが、証明なくして判決の基礎になるものとして「顕著な事実」(民事訴訟法179条)があります。
この「顕著な事実」に関する裁判例を見ると、最高裁昭和28年9月11日判決が、「顕著な事実」は、公知の事実のほか、当該裁判所にとって職務上顕著な事実も含み、後者は必ずしも一般に了知されていることを要しないとしています。
また、最高裁昭和31年7月20日判決は、構成員の過半数が共通の二つの裁判所に同一取引に関する民事・刑事の両事件が同時に係属する場合において、先になされた刑事判決の理由中で一定の事実を認定したことは他の裁判所にとって顕著であるから、当事者がこれと異なる事実についての自白を取り消し刑事判決の認定に沿う事実が真実に合致すると主張するときは、その真実性を判断するに当たり前記の顕著な事実をも資料としなければならないとしています。