Archive for the ‘個人法務’ Category
証拠の申出とその撤回
裁判所に対し、証拠方法の取調べを要求する当事者の申立てを証拠の申出と言います。そして、この証拠の申出は、証明すべき事実を特定してしなければならない(民事訴訟法180条1項)とされています。
この証拠の申出に関する裁判例を見ると、最高裁昭和32年6月25日判決が、証人尋問の終了後は、その申請を撤回することができないとしています。また、最高裁昭和58年5月26日判決は、いったん裁判所の心証形成の資料に供された証拠について、その申出を撤回することは許されず、裁判所は申出人に有利か否かにかかわらず当事者双方に共通する証拠としてその価値を判断しなければならないとしています。
調査の嘱託
民事裁判において、証拠の取調に関し多くの手続きがありますが、そのなかに調査の嘱託と言う制度が存在し、裁判所は、申立てまたは職権で、必要な調査を内外の官庁公署、学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる(民事訴訟法186条)とされています。
この調査の嘱託に関する裁判例を見ると、最高裁昭和45年3月26日判決は、調査の嘱託によって得られた結果を証拠とするには、裁判所がそれを口頭弁論で提示して当事者に意見陳述の機会を与えれば足り、当事者の援用を要しないとしています。また、大阪高裁平成19年1月30日判決は、調査嘱託として口座開設者の氏名住所等の個人情報の回答を求められた場合には、本人の同意の有無にかかわらず当然に回答する義務を負うが、これは裁判所に対する公的義務であって個々の依頼者が回答を求める権利を有しているのではないから、銀行が右情報につき回答を拒否しても不法行為の要件には該当しないとしています。
時機に遅れた攻撃防御方法の却下
民事訴訟法156条は、攻撃又は防御の方法は「訴訟の進行状況に応じ適切な時期」に提出しなければならない(適時提出主義)とし、同法157条は、当事者が「故意又は重大な過失」によって「時機に遅れて提出した攻撃又は防御の方法」について、これを審理したのでは「訴訟の完結を遅延させる」場合に申立または職権で却下しうるとしています。
この「故意又は重過失」について、大審院昭和6年11月4日判決は、第一審の口頭弁論期日に出頭しなかったために主張しなかった抗弁を控訴審で提出したのに対し、その不出頭に対する帰責事由の有無を判断せずに右抗弁を却下した原判決は違法としています。また、「訴訟の完結を遅延させる」場合について、
東京高裁平成元年3月27日判決は、自白後弁論終結までの間にこれを撤回する機会が十分ありながら格別の措置をとることなく弁論の終結を迎え、その後弁論再開の申請と共にした自白撤回の申出は訴訟の完結を著しく遅延させる時機に遅れたものとしています。なお、最高裁昭和30年4月27日判決は、申請された検証がたとえ一定の要証事実に対する唯一の証拠方法であったとしても、本条に該当するときはこれを却下することができるとしています。
親権者とその子との利益相反行為
成年に達しない子は、父母の親権に服する(民法818条1項)とされていますが、親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為について、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない(同法826条1項)とされています。
この利益相反行為について、大審院大正10年8月10日判決は、単に親権者と未成年の子とが当事者となりその間になす法律行為のみに限らず、親権者のために利益にして未成年者のために不利益な法律行為を包括指称するとしています。
そして、この利益相反行為への該当性に関し、最高裁昭和37年10月2日判決は、親権者が子の名において金員を借り受け子の不動産に抵当権を設定することは、仮に借受金を親権者自身の用途に充当する意図であっても利益相反行為とはいえないが、親権者自身が金員を借り受けるに当たり子の不動産に抵当権を設定することは、仮に借受金を子の養育費に充当する意図であったとしても利益相反行為に当たるとし、最高裁昭和42年4月18日判決は、親権者が子を代理してした行為自体を外形的・客観的に考察して判定すべきであって、親権者の動機・意図をもって判定すべきでないとしています。
離縁原因としての悪意の遺棄・3年以上の生死不明
離婚について民法770条が悪意の遺棄・3年以上の生死不明を離婚事由としている(同条2号、3号)ところ、離縁についても同様の規定が置かれ、同法814条1号が、「他の一方から悪意で遺棄されたとき」、その2号が、「他の一方の生死が3年以上明らかでないとき」を離縁事由としています。
この離婚事由に関する裁判例を見ると、悪意の遺棄に関し、遺棄とは、現代における合理的養親子関係として養成される程度の精神的共同生活を破棄すること(大審院昭和13年3月24日判決)とされています。
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扶養義務者間の順位と求償
直径血族と兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある(民法877条1項)とされています。また、家庭裁判所は、特別の事情があるときは、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる(同法同条2項)とされています。そして、このような扶養をする義務を負う者が数人ある場合において、扶養すべき者の順序について、当事者間の協議が不調または不可能なときは、家庭裁判所が定める(同法878条)とされています。
この扶養義務者の順位に関する裁判例を見ると、離婚後の父母の扶養義務について、大阪高裁昭和37年1月31日決定は、子に対し親権を有する者又は同居する者が当然他方より先順位にあるのではないとしています。また、非嫡出子の父母の扶養義務について、仙台高裁昭和37年6月15日決定は、親権や共同生活のいかんにかかわらず違いはないとしています。
なお、扶養義務者間の求償について、最高裁昭和26年2月13日判決は、現に扶養をしている扶養義務者の意に反して扶養権利者を引き取って扶養したという事実だけでは、引き取った他の扶養義務者が自己のみで扶養費用を負担すべきものとすることはできないとしています。
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「相続させる」趣旨の遺言の効力
被相続人は、遺言で遺産の分割の方法を定めることができる(民法908条)とされているところ、遺産を「相続させる」という遺言がこの遺産の分割の方法の指定になるかどうかが問題となることがあります。
この問題に関する裁判例を見ると、最高裁平成3年4月19日判決は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産の分割の方法を定めたものであるとし、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合は、その遺言において、相続による承継をその相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡時に直ちにその遺産はその相続人に相続により承継されるものとしています。
また、登記に関し、最高裁平成7年1月24日判決は、遺言により所有権を取得した相続人は、単独で登記手続をすることができるとし、最高裁平成14年6月10日判決は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言によって不動産を取得した者は、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるとしています。
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自筆証書遺言の方式
遺言者が、遺言の全文・日付け及び氏名を自書しこれに印を押して行う遺言を自筆証書遺言と言います(民法968条1項)。
この自筆証書遺言の方式が問題となった裁判例を見ると、日付について、最高裁昭和52年11月21日判決は、記載された日付が真実の作成日付と相違してもその誤記であること及び真実の作成の日が証書の記載その他から容易に判明する場合には遺言は無効とならないとしています。一方、最高裁昭和54年5月31日判決は、「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されている遺言は無効としています。
また、氏名について、大審院大正4年7月3日判決は、遺言者が何人であるかを知ることができ、他人との混同が生じない場合には名のみの記載でよいとしています。
また、押印について、最高裁平成元年2月16日判決は、遺言者が印章に代えて拇印その他の指頭に墨・朱肉等を付けて押印することをもって足りるとし、最高裁平成6年6月24日判決は、本文の自署名下には押印が無かったが、これを入れた封筒の封じ目にされた押印があれば押印に欠けるところはないとしています。
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公正証書遺言の方式
遺言は、公正証書によって行うことができる(民法906条)とされています。
そして、
①証人二人以上の立会があること(同条1号)、②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(同条2号)、
③公証人が遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させること(同条3号)、
④遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名捺印すること(同条4号)、
⑤公証人がその証書は以上の方式に従って作成したものである旨を付記して署名捺印すること(同条5号)
がその方式とされています。
この公正証書遺言の方式が問題となった裁判例を見ると、①の証人の立会いについて、最高裁平成10年3月13日判決は、証人は、遺言者が本条4号所定の署名及び押印をするに際してもこれに立ち会うことを要するとしています。
また、②の口授について、最高裁昭和51年1月16日判決は、公証人の質問に対し遺言者が言語をもって陳述することなく、単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときは口授があったとはいえないとしています。
また、③の読み聞かせ等について、最高裁昭和43年12月20日判決は、公証人があらかじめ他人から聴取した遺言の内容を筆記し公正証書用紙に清書した上、その内容を遺言者に読み聞かせたところ、遺言者が右遺言の内容と同趣旨を口授しこれを承認して右書面に自ら署名捺印した場合に本条の方式に違反しないとしています。
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推定相続人の廃除原因
民法892条は、遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができると規定し、同法893条は、遺言による推定相続人の廃除を規定しています。
そこで、この推定相続人の排除原因に関する裁判例を見ると、東京高裁平成4年12月11日判決が、虐待又は重大な侮辱について、被相続人に対し精神的苦痛を与え又はその名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該相続人との家族的協同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものをも含むとしています。
一方、大審院大正11年7月25日判決は、老齢の尊属親に対する甚だしい失行があったとしてもそれが一時の激情に出たものである場合は重大な非違とはいえないとし、また、大審院大正15年6月2日判決は、父がその子を非道に待遇したためにその子の非行を誘発するようになった場合は廃除権が常に生じるものではないとしています。
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