Archive for the ‘経営’ Category

賃金の直接払いの原則と賃金債権の譲渡

2022-11-14

   賃金は,直接労働者に対し支払わなければならない(労働基準法24条1項)とされているところ,この賃金債権が譲渡された場合にどうなるのかという問題があります。

   この問題に関する裁判例を見ると,退職手当の受給権が譲渡された場合について,最高裁昭和43年3月12日判決が,「退職手当法による退職手当の給付を受ける権利については,その譲渡を禁止する規定がないから,退職者またはその予定者が右退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合に譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども,労働基準法二十四条一項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない。」旨を定めて,使用者たる貸金支払義務者に対し罰則をもつてその履行を強制している趣旨に徴すれば,労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても,その支払についてはなお同条が適用され,使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず,したがつて,右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当である。そして,退職手当法による退職手当もまた右にいう賃金に該当し,右の直接払の原則の適用があると解する以上,退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においても,国または公社はなお退職者に直接これを支払わなければならず,したがつて,その譲受人から国または公社に対しその支払を求めることは許されない」と判示しています。


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有期雇用労働者と無期雇用労働者の間での労働条件の相違

2022-11-07

   有期雇用労働者と無期雇用労働者とで労働条件が異なることがあるところ,期間の定めがあることにより有期雇用労働者の労働条件が無期雇用労働者の労働条件と異なる場合,その相違は職務の内容などを考慮して不合理と認められるものであってはならない(労働契約法20条)とされています。

   この労働契約法20条が問題となった裁判例を見ると,平成30年6月1日判決(ハマキョウレックス事件)が,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであること, 同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうとしています。また,同じ日にでた最高裁平成30年6月1日判決(長澤運輸事件)が,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとしています。


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有期の労働契約から無期の労働契約への転換

2022-10-31

   労働契約においては期間の定めのあるもの(有期労働契約)と期間の定めのないもの(無期労働契約)があるところ,2012年に労働契約法の改正によって有期労働契約から無期労働契約への転換に関する労働契約法の改正が行われました。

   その改正は,同一の使用者との間の2つ以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超えている労働者が使用者に対し,契約期間の満了日までに無期労働契約締結の申込をした場合には,使用者はその申込みを承諾したものとみなされるというものです(労働契約法18条1項前段)。

   大学教員,高度専門的知識等を有する労働者,定年後の継続雇用者についてはこの転換の申込が認められるようになるまでの期間が延長されています(大学教員任期法7条等)。


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労働協約の改訂による労働条件の不利益変更の規範的効力

2022-10-23

   労働協約の改訂によって従来よりも労働者にとって不利な労働条件が定められることがありますが,このような場合に労働協約の規範的効力(労働組合法16条)が問題とされることがあります。

   この問題に関する裁判例を見ると,定年及び退職金の算定方法を労働者に不利益に変更する労働協約について,最高裁平成9年3月27日判決が,「これにより上告人が受ける不利益は決して小さいものではないが,同協約が締結されるに至った以上の経緯,当時の被上告会社の経営状態,同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば,同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず,その規範的効力を否定すべき理由はない」としています。


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労働者が退職する際に支給される退職金の減額・不支給

2022-10-17

   労働契約や就業規則で制度化されている場合,退職するにあたって,労働者は,退職金請求権を有することになりますが,この場合においても退職金が減額されたり不支給とされたりすることがあります。

   この退職金の減額・不支給に関する裁判例を見ると,退職金が減額される場合について,最高裁昭和52年8月9日判決は,「営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもつて直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められず,したがつて,被上告会社がその退職金規則において,右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき,その点を考慮して,支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも,本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば,合理性のない措置であるとすることはできない」としています。

   また,退職金が不支給となる場合について,東京高裁平成15年12月11日判決は,「その退職金全額を不支給とするには,それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である」としています。


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正当な退職勧奨と不法行為を構成する退職強要

2022-10-11

   使用者が労働者に対し退職を促すこと(退職勧奨)は違法ではありませんが,それが退職強要になると違法と評価されることになります。

   この退職勧奨と退職強要に関する裁判例を見ると,東京地裁平成23年12月28日判決が,退職勧奨について「勧奨対象となった労働者の⾃発的な退職意思の形成を働きかけるための 説得活動であるが,これに応じるか否かは対象とされた労働者の⾃由な意思に委ねられるべきものである」,「使⽤者は,退職勧奨に際して,当該労働者 に対してする説得活動について,そのための⼿段・⽅法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り,使⽤者による正当な業務⾏為としてこれを⾏い得る」とする⼀⽅,「労働者の⾃発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて,当該労働者に 対して不当な⼼理的圧⼒を加えたり,⼜は,その名誉感情を不当に害するような⾔辞を⽤いたりすることによって,その⾃由な退職意思の形成を妨げるに⾜りる不当な⾏為ないし⾔動をすることは許され」ないとした上で,「退職勧奨の対象となった社員がこれに消極的な意思を表明した場合であっても」「更に具体的かつ丁寧に説明⼜は説得活動をし,また,真摯に検討してもらえたのかどうかのやり取りや意向聴取をし,退職勧奨に応ずるか否かにつき再検討を求めたり,翻意を促したりすることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した態様でなされたものでない限り,当然に許容される」としています。


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従業員の引き抜きによる不法行為

2022-10-03

   企業間における従業員の引き抜きについて,不法行為の成否が問題となることがあります。

①  退職前の引き抜き
   退職前の引き抜きに関し,東京地裁平成3年2月25日判決は,「企業間における従業員の引抜行為の是非の問題は,個人の転職の自由の保障と企業の利益の保護という二つの要請をいかに調整するかという問題でもあるが,個人の転職の自由は最大限に保障されなければならないから,従業員の引抜行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえず,したがって,右転職の勧誘が引き抜かれる側の会社の幹部従業員によって行われたとしても,右行為を直ちに雇用契約上の誠実義務に違反した行為と評価することはできないというべきである。しかしながら,その場合でも,退職時期を考慮し,あるいは事前の予告を行う等,会社の正当な利益を侵害しないよう配慮すべきであり(従業員は,一般的に二週間前に退職の予告をすべきである。民法六二七条一項参照),これをしないばかりか会社に内密に移籍の計画を立て一斉,かつ,大量に従業員を引き抜く等,その引抜きが単なる転職の勧誘の域を越え,社会的相当性を逸脱し極めて背信的方法で行われた場合には,それを実行した会社の幹部従業員は雇用契約上の誠実義務に違反したものとして,債務不履行あるいは不法行為責任を負うというべきである」としています。

②  退職後の引き抜き
   退職後の引き抜きに関し,東京地裁平成5年8月25日判決は,「会社の取締役又は従業員は,その退任後又は雇用関係終了後においては,その一切の法律関係から解放されるのであって,在任又は在職中に知り得た知識や人間関係等をその後自らの営業活動のために利用することも,それが旧使用者の財産権の目的であるような場合又は法令の定め若しくは当事者間の格別の合意があるような場合を除いては,原則として自由なのであって,退任ないし退職した者が,旧使用者に雇用されていた地位を利用して,その保有していた顧客,業務ノウハウ等を違法又は不当な方法で奪取したものと評価すべきようなときでない限り,退任ないし退職した者が旧使用者と競業的な事業を開始し営業したとしても,直ちにそれが不法行為を構成することにはならない」としています。一方,東京地裁平成6年11月25日判決は,元従業員等の競業行為が,雇傭者の保有する営業秘密について不正競争防止法で規定している不正取得行為,不正開示行為等(同法二条一項四号ないし九号参照)に該当する場合はもとより,社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法な態様で雇傭者の顧客等を奪取したとみれるような場合,あるいは,雇傭者に損害を加える目的で一斉に退職し会社の組織的活動等が機能しえなくなるようにした場合等も,不法行為を構成することがある」としています。


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有期労働契約と無期労働契約における労働者の辞職の要件の違い

2022-09-26

①  有期労働契約の場合

   労働者も期間の定めに拘束されることから、有期労働契約を締結している労働者が辞職しようとする場合には「やむを得ない事由」が必要となります(民法628条)。ただ、1年を超える期間の定めのある有期労働契約を締結している労働者は、その労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては自由に辞職することができる(労基附則137条)とされています。


②  無期労働契約の場合

   この場合には、2週間前に予告すればいつでも労働者は辞職することができる(民法627条1項)とされています。


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期間の定めのある労働契約における期間途中の解雇

2022-09-19

   使用者は,期間の定めのある労働契約において,やむを得ない事由がある場合でなければ労働者を解雇することができない(民法628条,労働契約法17条1項)とされていることから,やむを得ない事由が認められて期間途中の解雇ができるかどうかが問題となることがあります。

   この期間途中の解雇に関する裁判例を見ると,福岡高裁平成14年9月18日決定は,期間の定めのある労働契約は,民法628条によりやむを得ない事由があるときに限り期間内解除ができるにとどまり,就業規則の解雇事由の解釈に当たっても雇用期間の中途でなされなければならないほどのやむを得ない事由の発生が必要であるとしています。また,宇都宮地裁栃木支部平成21年4月28日決定は,本条1項の「やむを得ない事由」は期間の定めのない労働契約の解雇の有効要件である「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合」よりも厳格なものであるとしています。


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労働契約の内容の合意による変更

2022-09-05

   労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができます(労働契約法8条)。

   この労働条件変更の合意に関し,大阪高裁平成3年12月25日判決は,使用者が一方的に賃金を減額したのに対して労働者が不満ながら異議を述べずにこれを受領してきたからといってこれをもって賃金の減額に労働者が黙示の承諾をしたとはいえないとしています。また,東京高裁平成20年3月25日判決は,期間の定めのない雇用契約から1年の有期契約への変更,賃金の減額,退職金制度の廃止,生理休暇・特別休暇の無給化等多岐にわたる労働条件の変更につき,数分の社長説明及び個別面談での口頭説明によってその全体及び詳細を理解し記憶に留めることは到底不可能であり,使用者による労働条件の変更合意の申込みの内容の特定が不十分であるから口頭による労働条件の変更の合意が成立したと認めることはできないとしています。


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